本年度は、炭素と同族の第3~5周期元素であるケイ素、ゲルマニウム、スズなどの有機高周期典型元素をスピン中心に持つ酸化還元機能をもつ安定なラジカル化合物を合成し、カチオン、中性ラジカル、アニオン間の相互変換を自由に行うことができる電子状態を持つ常磁性分子を構築し、固体状態での電気化学的な物性の解明を重点的に検討した。また、単一分子内に複数のスピン中心を持つポリラジカルの基底多重度とスピン間相互作用についても検討し、有機高周期典型元素ラジカルを磁性中心とする新規な有機磁性体材料の設計、開発の指針を得ることを目的として検討を行った。ケイ素、ゲルマニウム、スズなどの有機高周期典型元素をスピン中心に持つ安定なラジカル化合物の気相状態での光電子スペクトルの測定から約6eVと極めて低い第一イオン化ポテンシャルを有することを明らかにした。高周期14族元素ラジカル化合物のサイクリックボルタノメトリーの測定を結晶状態、電解液として1MのLiTFSIを溶解したイミド系イオン液体を用い、Li金属対極で行ったところ、 全ての試料において約1.3 V、2Vに還元、及び酸化ピークが可逆的に観察された。 また、掃引速度を変えて拡散定数を算出すると何れも10-11~10-10 cm2/s程度であり、溶液状態とは異なり、高周期14族元素ラジカルは可逆的に酸化還元挙動を示すことを明らかにした。また、2つのケイ素ラジカルを一般的なπスペーサーであるベンゼン環のp-位及びm-位に集積させたビス(シリルラジカル)の合成及び単離に成功し、パラ体が基底一重項のキノイド構造を持つ一方メタ体が高スピン基底三重項状態を持つことを明らかにした。分子内に複数のラジカル中心を持つオリゴシリルラジカルを初めて合成・構造解析したことは、高周期元素ラジカルの化学において重要な知見を与える研究成果を得ることができた。
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