研究概要 |
有機化学の枠組みを超えた化学全般にわたる重要な概念であるπ芳香族性及び反芳香族性に対して、σ電子が担うσ芳香族及び反芳香族化合物の研究はほとんどない。そこで本研究では、新しい非局在電子系であるσ芳香族性及び反芳香族性を明らかにすることを目的とした。 1,2-ビス(フェニルセレノ)ベンゼンとトリブロモボランの反応を検討したところ、一つの臭素がセレン上に残ったブロモセレノニウム塩が生成した。この分子構造をX線構造解析及び理論計算により明らかにしたところ、セレン原子間に非結合性相互作用があることがわかった。この成果により、ベンゼン環のオルト位に2つのセレン原子を有する化合物においてもセレン原子間に非結合性相互作用が発現することが初めて明らかになった。これはσ芳香族性化合物の設計に繋がる重要な知見である。一方、銀塩との反応ではセレナントレニウム塩が生成し、その分子構造を初めて明らかにした。一方、1,2-ビス(メチルセレノ)ベンゼンのニトロソニウム塩による直接酸化ではメチル基の転位が進行し、それぞれのセレン原子上に二つのメチル基を有するジカチオンが生成した。6つのt-ブチルセレノ基を有するベンゼンのニトロソニウム塩による直接酸化も検討したが、反応は複雑であった。 アルミニウム-アルミニウム結合を有するクラスター型のσ芳香族及び反芳香族化合物の合成を目指し、アルミニウム上にかさ高いシリル基を有し、N-ヘテロ環状カルベンの配位を受けたジクロロシリルアルマンを合成し、その還元反応を検討したところ、予想に反してカルベン窒素上のアルキル基が脱離し、アルミニウムが転位した生成物を得た。還元の前に、まずアルミニウム-アルミニウム結合を形成させておく必要があると思われる。 ジリチオスタンノールとチタン試薬の反応により、σ芳香族性が発現している可能性があるTiSn2三員環化合物の合成に成功した。
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