研究課題/領域番号 |
23655030
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 直和 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00302810)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | リン / ヒドリド還元 / 超原子価化合物 |
研究概要 |
本年度は、リン-水素結合を有する6配位リン化合物の合成と、そのヒドリド性の実証を目的として、検討を行った。ヘキサフルオロクミルアルコール由来の二座配位子を二つ有する5配位リン化合物を出発物質として、リン-水素結合を二つ有するアート型6配位リン化合物を空気中室温条件下で安定な化合物として合成した。反応溶媒を始めとする合成条件と対カチオンを検討することにより、二つの異性体を単離することができた。それぞれの異性体について、X線結晶構造解析および核磁気共鳴スペクトルによって構造を明らかにしたところ、リン原子周りの配座が異なることがわかった。一方の異性体は条件次第でもう一方の異性体へと異性化した。理論計算から二つの異性体の安定性を比較したところ、実験結果と対応する結果を得た。また、二つの異性体でリン-水素結合の分極が異なることが、スペクトル測定と理論計算の両面から明らかにできた。芳香族アルデヒド化合物を基質とするヒドリド還元反応を検討した結果、一方の異性体では、触媒を添加せずともヒドリド還元反応が進行することがわかった。それに対して、反応性の低いもう一方の異性体を用いた場合には、ルイス酸またはブレンステッド酸を添加した場合にのみ還元反応が進行することがわかった。このように、配座異性体の違いによって反応性が顕著に異なることを見出すことができた。この反応性の違いは、理論計算から求められたリン-水素結合の分極と対応する結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の本研究の目的は、主にリン-水素結合を有するアニオン性6配位リン化合物を合成することと、そのヒドリド反応性を実証することであった。その二つの目的は概ね達成できた。さらに、6配位リン化合物は二つの異性体を単離することができたので、おおむね順調に進展すると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、種々のカルボニル化合物との反応を検討し、ヒドリド還元剤としての有用性を検討する。次に、リン化合物の互変異性とプロトン性を実証し、ワンポットで行える反応条件を探索する。最終的に、重水を重水素源とする重水素化反応を行い、重水を用いたカルボニル化合物の求核的な重水素化反応、すなわち重水を用いたデューテリド還元反応を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、基本的に全額を試薬・溶媒の購入に使用する予定である。
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