本研究の目的は、重水素源としては安価な重水分子を用いる求核的な重水素化反応を開発し、様々な基質を簡便に重水素標識する手法を開発することである。前年度までの研究で、水素原子を置換基として有するアート型6配位超原子価リン化合物を使用した重水素化反応は達成できたが、簡便に重水素標識を行うためには、ワンポットでの反応が必要不可欠であった。化合物の合成の再現性に問題があったため、当初の研究実施計画の研究期間を延長して、研究を進めた。その結果、最終年度には、ワンポットでの反応の有効性の検証を詳細に行うこととなった。溶媒、基質、添加物、反応時間等の反応条件について詳細な検討を行った。重水を重水素源として使用するカルボニル化合物のワンポットでの重水素化反応について、適切な反応条件を設定できた。前年度までの結果とあわせて、アルデヒド、ケトン等に対して重水分子による形式的な求核的重水素化反応を達成し、簡便な重水素標識手法を開発できた。従来は重水分子を重水素源に使用しようとすると、ほとんどが求電子的な重水素化方法であったために、適用できる基質に制限があったが、本研究成果である新たな重水素化手法の開発によって選択の幅が広がったという意味で、意義深い。重水素標識された化合物は反応機構研究等に必要不可欠であるので、本手法はそのような目的での重水素同位体標識化合物を合成しようとする研究者にとって有用なものになり得る。
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