従来は遷移金属を用いて行われていた有機化合物の重水素化標識を、遷移金属を使わずに、重水素源として重水を使用する新手法を開発した。リン-水素結合を有するアート型6配位リン化合物を安定な化合物として合成し、リン原子周りの配座が異なる二つの異性体をそれぞれ単離した。どちらも重水とのH-D交換反応と、カルボニル化合物のヒドリド還元反応が進行した。芳香族アルデヒド化合物を基質として検討した結果、二つの異性体では両方の反応において反応性に差が見られた。H-D交換とヒドリド還元をワンポットで行える反応条件を設定し、重水分子の重水素の極性変換を利用することで、重水を使った求核的な重水素化手法を開発できた。
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