研究課題/領域番号 |
23655037
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
依光 英樹 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00372566)
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キーワード | クロスカップリング / パラジウム / π共役系 |
研究概要 |
ポルフィリン多量体は光合成反応中心のモデル分子、非線形光学材料、有機導電性材料として盛んに研究が行われている。我々は、ポルフィリン多量体の新たな合成法として、同一時空間集積化に基づく2,18-ジエチニルポルフィリンのパラジウム触媒による酸化的にカップリングを検討した。これまでに過剰の酢酸銅を用いたエリントンカップリングによる二量化が知られていたが、今回パラジウム触媒を用いたところ、驚くべきことに三量体が高選択的に生成した。 この選択性の違いはブタジイン生成の反応機構の差異によると考えている。すなわち、銅塩を用いるカップリングでは、ブタジイン生成過程がpseudo-trans型で進行するのに対し、パラジウム触媒を用いた場合には、パラジウム上にシスに配置されたアルキニル基からブタジインが生成する。二量体が生成するためにはpseudo-trans型が有利な中間体である一方で、パラジウム触媒では対応するcis-ジアルキニルパラジウム中間体が剛直な骨格ゆえに生成し得ないため、三量化が優先すると考えられる。 ブタジイン部位を蝶番として、新奇ポルフィリン多量体の合成に成功した。本研究は国際的に評価の高い学術誌Angewandte Chemie International Editionに掲載され、雑誌の表紙を飾るに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリルメチル亜鉛反応剤を蝶番にするπ共役系連結法の開発には至っていないものの、古くからある蝶番であるブタジインの極めて斬新な構築法を開発することができた。π共役系の伸張を考慮した場合にはシリルメチル蝶番よりもブタジインの方が有効な蝶番であることも多い。高度にπ共役系の広がった縮環π共役系分子は有機エレクトロニクスの鍵を握る分子群である。よって、今回偶然にも見つかったブタジインの斬新な構築法は、縮環π共役系骨格を構築する新しい方法論であり、従来法では合成困難であった縮環π共役系分子を合成し、その特異な構造に基づく斬新な光・電子機能を開拓するものである。今年度の研究は有機エレクトロニクスの飛躍的発展に大きく寄与できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシリルメチル亜鉛反応剤を蝶番にするπ共役系連結法の開発を行う。それに加えて、より斬新なπ共役系連結法の発見も模索していく。 斬新な構造を有する縮環型拡張π共役系分子の合成を目指す。具体的なターゲット分子としては、ポリアセン、ジグザグカーボンナノチューブモデル分子、メチン架橋ポルフィリン二量体を想定している。前の二つに関しては生成物が酸化に弱いと考えられるので、適切な立体保護基あるいは電子求引性基を導入して目的生成物にアプローチする。置換基の影響によりクロスカップリング反応における反応条件の微調整が必要と予想されるので、状況に応じて随時検討して行く。 いずれの分子もその特異な構造に由来する光・電子物性が期待できる。光物性、酸化還元電位、分子構造と結晶状態でのパッキングについて詳細に検討し、機能性有機材料としての優れた特性を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
π共役系連結反応に用いるパラジウム触媒をはじめとする薬品代を主な用途とする。これに加えて、反応用・抽出精製用・分析用溶媒、ガラス器具などを消耗品費として処理する。最終年度であることから、研究成果を有機金属討論会や日本化学会春季年会などの国内学会ならびに海外の国際会議において積極的に情報発信するための旅費としても使用する。
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