ポルフィリン多量体は光合成反応中心のモデル分子、非線形光学材料、有機導電性材料として盛んに研究が行われている。我々は、 ポルフィリン多量体の新たな合成法として、ケイ素をちょうつがい元素とする手法を考案した。 これを達成するために、まず周辺ハロゲン化ポルフィリンの高効率合成法を開発した。すなわち、イリジウム触媒を用いて容易に合成できるベータボリルポルフィリンをN-ハロコハク酸イミドとハロゲン化銅(I)で処理すると、ボリル基がハロゲンに置き換わることを見いだした。さらに、Knochelが開発した塩化イソプロピルマグネシウム臭化リチウム錯体を用いてハロゲンマグネシウム交換を行ったところ、交換が速やかに進行し、ポルフィリニルグリニャール反応剤を発生させることに世界で初めて成功した。グリニャール反応剤は有機化学における最も基本的な反応剤であり、今後の広がりを期待できる。 ポルフィリニルグリニャール反応剤を用いてケイ素元素の導入を検討したところ、クロロジメチルシランとの反応で、シリル化が効率よく進行することが明らかとなった。これは、ポルフィリン母核周辺にケイ素が直接結合した世界初の例である。さらにジクロロメチルシランとの反応では、ケイ素をちょうつがいとしたポルフィリン二量体を合成することができた。二つのポルフィリン間の相互作用は小さく、一カ所でつなぐのではなく、二カ所でつないで二枚のポルフィリンをより強固に固定する必要があると考えている。
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