研究課題/領域番号 |
23655045
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
椎名 勇 東京理科大学, 理学部, 教授 (40246690)
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キーワード | 有機化学 / 有機合成化学 / 軸不斉 / 不斉配位子 / 不斉触媒 / 光学分割 |
研究概要 |
本申請課題では「軸不斉を有する新規塩基触媒ビピリジル N,N’-ジオキシド類の創製、ならびにこれらを用いた高選択的な不斉合成反応の開発」を目指している。 初年度はDMAPO二量体構造の炭素4,4’位にアルキル基を導入した軸性不斉分子の調製法の確立を試み、2-ブロモ-3-ピコリンを出発原料とし、5工程を経て最終目的物である3,3’-ジメチル-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-2,2’-ビピリジル N,N’-ジオキシド(DM-DMAPO)の全合成を完了した。引き続き本年度はDM-DMAPOの大量合成を進めてその旋光度ならびに合成中間体の物性値を収集した。さらに、より高い立体選択性を与えると予想されるビピリジル型 N,N’-ジオキシド類の一つとして、キノリン残基を分子内に包含する3,3'-ジメチル-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)-2,2'-ビキノリル N,N'-ジオキシド(DM-DMQO)を考案し、これをアントラニル酸から調製する検討を行った。DM-DMQOはDM-DMAPOの5,6位に新たにベンゼン環を導入した構造となる。 実際にアントラニル酸から導かれた2-アミノベンズアルデヒドのホモカップリングを行ったところ対応するビキノリン型化合物が得られ、さらに、DM-DMAPOの合成の際と同様に過酸を用いることでN-オキシ化を進行させ目的とするN,N’-ジオキシドを入手することができた。この化合物をビナフトールとの混晶に導いたところ光学分割が進行し、軸性キラリティーを有する2種類の光学活性N,N’-ジオキシドが生じた。引き続き4位への置換基の導入を試み、ニトロ化、塩素化およびアミノ化を経ることでDM-DMQOの全合成をアントラニル酸から7工程で達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、2種類の新規塩基触媒である3,3’-ジメチル-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-2,2’-ビピリジル N,N’-ジオキシド(DM-DMAPO)および3,3'-ジメチル-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)-2,2'-ビキノリル N,N'-ジオキシド(DM-DMQO)の全合成を達成することができた。前者については再合成を行い物性値の収集を完了した。現在、これらの化合物を触媒とした物質構造変換法の開発を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
3,3’-ジメチル-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-2,2’-ビピリジル N,N’-ジオキシド(DM-DMAPO)および3,3'-ジメチル-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)-2,2'-ビキノリル N,N'-ジオキシド(DM-DMQO)の全合成法を確立し、前者については再合成を行い物性値の収集を完了したので、現在、後者についても再合成を行い不斉有機合成反応に活用するための準備を進めている。次年度はこれまでの検討を通じて供給可能となった新しい軸不斉型光学活性DMAPOであるDM-DMAPOおよびDM-DMQOを塩基触媒として用い、不斉合成反応の検討を行う。具体的には、我々のオリジナルな脱水縮合反応である置換安息香酸無水物を活用したエステル化、アミド化ならびに芳香環アシル化反応を順に行って光学活性な有機分子の供給法確立を目指す。この際、例えばラセミ体のアルコールを原料として用いればラセミ求核剤の速度論的光学分割が可能になるものと予想され、一方でアシル化剤側をラセミ体として反応に供すれば相当する求電子剤が速度論的に光学分割されることになるので、求核剤ならびに求電子剤のいずれの光学活性体を与えることのできる柔軟な不斉合成反応への展開も視野に入れている。また、以前から我々の研究室で継続的に調査している不斉アルドール反応や不斉アリル化反応にこれらの触媒を適用することによって、炭素-炭素結合の形成を伴った不斉合成反応の開発が実現できるものと期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
全合成を達成した3,3’-ジメチル-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)-2,2’-ビピリジル N,N’-ジオキシド(DM-DMAPO)および3,3'-ジメチル-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)-2,2'-ビキノリル N,N'-ジオキシド(DM-DMQO)の物理的ならびに化学的性質を明らかにするため、核磁気共鳴等の各種スペクトル解析やX線結晶構造解析を行う。論文作成には純度を高めたこれらの合成中間体の物性値の入手が要求されるため、原料となる芳香族化合物群を定常的に購入する必要がある。また、各工程の実施には様々な有機合成試剤の購入が求められるので、これら試薬代等の消耗品費として予算を活用する。 さらに、不斉有機合成反応の触媒としてDM-DMAPOおよびDM-DMQOを使用し、ラセミアルコールの速度論的光学分割反応、ラセミアミン類の速度論的光学分割反応、ラセミカルボン酸の速度論的光学分割反応、ならびにラセミカルボン酸の動的速度論光学分割反応等を行う際には基質の性質に合わせた溶媒や共塩基の選択が必要である。同様に、不斉アルドール反応や不斉アリル化反応の実施にもバリエーションに富んだ有機化合物の購入が必須であり、それらの購入費としても研究費を支出する。 加えて、上記研究遂行のためには反応容器や真空ライン等のガラス製品や機械類も必需であるので、これらの購入に際しても研究費を使用する。
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