研究課題/領域番号 |
23655049
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡村 高明 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90252569)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生物無機化学 / 酵素モデル / 二酸化炭素 / 水素結合 / タングステン |
研究概要 |
二酸化炭素濃度の上昇は、地球規模で解決すべき問題の一つである。ある種のギ酸デヒドロゲナーゼが行っているように二酸化炭素をギ酸に変換できれば、化学エネルギーとして貯蔵・再利用が可能である。研究代表者は、これまで系統的に行ってきたモリブデン・タングステン酵素モデル研究の知見を基に、水素結合、立体構造の歪み、疎水的な特殊反応場と関連した斬新な発想により二酸化炭素を還元できるタングステン酵素モデルの構築を行う。 本年度は、当初の計画に従い、1,2-ベンゼンジチオラートの3,6位に非常に嵩高いアシルアミノ基を導入し、モノオキソタングステン(IV)、ジオキソタングステン(VI)錯体を合成し、イオン性の錯体で有りながらトルエンのような非極性溶媒に可溶化させることに成功した。X線結晶構造解析により、それぞれの分子構造を決定し、溶液中の構造を低温のNMRにより解析した。金属中心は周りを嵩高い疎水基で完全に覆われ、カウンターカチオンが、その中に埋没することで見かけ上、中性分子となり非極性溶媒に可溶化したと解釈できる。カウンターカチオンは、結晶中、溶液中でオキソ配位子の近傍に存在し、当初の予想通り、酵素活性部位に存在するプロトン供与体の良いモデルになることが示された。また、全く新しい合成法により置換活性なt-ブタンチオラート配位子を持つデソキソモリブデン(IV)錯体の合成を行った。非常に反応性が高いため完全な単離・同定には至っていないが、水硫化物と反応させることでモノスルフィド錯体を得ることに成功し、本研究の目的の一つであるモノセレニドタングステン(IV)錯体の類似化合物として有用な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に概ね従って研究が進行している。錯体の分子量が大きいため構造解析には困難を伴うが、条件を検討することにより、ほぼ満足できる結果を得ている。デソキソタングステン(IV)錯体の新規合成法の検討は、タングステン錯体では行っていないが、より安定なモリブンデン錯体では実施済みであり、同様の方法により達成できると考えている。次年度の予定にあったモノセレニドタングステン(IV)錯体の合成は、より安定なモノスルフィドモリブデン(IV)錯体では合成できており、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い、(1) デソキソタングステン(IV)錯体の合成、(2) モノセレニドタングステン(IV)錯体の合成、(3) モノセレニドタングステン(IV)錯体の二酸化炭素との反応、(4) 他の基質との反応を順に行い、得られた結果をまとめ成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の予定であった錯体の配位子の設計・合成と錯体の合成については当初の予定通り順調に進行したが、構造解析は分子量が大きいことや結晶が空気酸化や風解などで不安定なことなどで解析は困難を伴った。溶液構造解析もトルエンのような非極性溶媒中での挙動については、これまでの知見が少なく解析にも時間を要した。試薬などの物品の消費は少なく抑えることができたため、次年度予算へ繰り越した。結晶構造やスペクトルが化合物の複雑さのため、詳細な議論が困難であることが明らかになった。そこで次年度は基質に同位体ラベルをした試薬などを用い、高感度での測定を行う。これらの試薬は高価で、当初の予定には無かったが、本年度予算の繰越分を購入に充てる。
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