研究概要 |
本研究では、タンパク質マトリクスを活用し、非天然二核金属中心を有する生体触媒の構築を目的とし、第一配位圏の合理的な配位環境の再構築によって、二核鉄中心を有する酸化反応触媒の創製を実施した。金属タンパク質触媒は、水中の温和な条件下でも高活性な次世代型触媒の候補であり、生物無機化学、触媒化学、タンパク質科学の研究者が近年勢力的に参入してきている。これまでの研究は、天然酵素の単核金属中心を機能改変する、あるいは、単核金属錯体をタンパク質内に包接した系がほとんどである。一方、生体ではメタンの酸化を行うメタンモノオキゲナーゼや水素分子の酸化還元するヒドロゲナーゼのように、タンパク質二核金属中心が、物質循環の鍵となる反応を触媒している。 その重要性にも拘わらず、二核中心を含めた多核コアの人工生体触媒の人工機能化の研究は黎明期である。本研究では、シンプルかつ強固な4本へリックス構造のタンパク質マトリックス内に非天然の二核金属中心の構築し、触媒反応への適用を目的としており研究を実施した。具体的には、オキソ/ヒドロキソ架橋された二つの鉄イオンに5つのヒスチジンが配位し、アスパラギン酸とグルタミン酸のカルボキシル基が架橋したヘムエリスリンと同様の二核鉄の配位アミノ酸及び近傍のアミノ酸変異体を調製し、その発現と機能解析を行った。その結果、酸素等の外部配位子との結合挙動が異なるI119E , I119H 変異体を見いだした。この変異体が過酸化水素を酸化剤、グアイアコールを基質とした酸化反応において、野生型にはない反応性を有する事を見出すとともに、その構造解析と詳細な機能解析を行い、鉄二核中心の機能改変に関する重要な知見を得た。
|