研究課題/領域番号 |
23655052
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝義 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (80249953)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 自然分晶 / キラリティー / 多核金属錯体 / 結晶成長 / コングロメレイト |
研究概要 |
本研究では、不斉中心を含まない有機物と金属イオンの組み合わせにより生成する金属錯体を用いて、エナンチオ選択的に結晶が析出する完全自然分晶を現象論的に確立し、その際のキラリティーの発現および制御機構を明らかにすることをめざしている。本年度は、三脚型配位子のねじれ配位をキラル源とする遷移金属とランタノイドイオンを含むM(II)-Ln(III)-M(II)型三核錯体について、様々な条件下での結晶化を調査するとともに、金属イオンの種類による完全自然分晶発現の規則性を検討した。まず、遷移金属としてMn(II), Zn(II)を用いた三核錯体に対して、完全自然分晶の発現に対する溶媒効果を調べた。さらに、Fe(II), Co(II)を用いた三核錯体では、ランタノイドイオンの種類により、完全自然分晶・全自然分晶・コングロメレイト生成・ラセミ化合物生成の全ての可能性を見いだすことができた。これらの結果から、完全自然分晶の発現には遷移金属イオン、ランタノイドイオン、対イオン、再結晶溶媒の組み合わせが重要であることが結論できた。また、完全自然分晶の際に光学活性を決定するキラル源の存在を確認するため、光学活性な有機不純物の添加や磁場の影響、力学的撹拌の影響も調べた。完全自然分晶を示す新たな金属錯体の探索に関しては、興味深い錯体を発見することができた。上述の三核錯体と類似の三座配位子を含む単核Fe錯体は、以前の結晶化法ではラセミ化合物になると報告されていた。三核錯体に対する結果を参考に再結晶溶媒の効果を調査したところ、溶媒の選択により完全自然分晶を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標であるキラリティー発現の機構解明は、非常に挑戦的であり困難であることが予想されるが、その解明過程と位置づけている完全自然分晶の現象論的な確立には多くの成果が得られた。また、完全自然分晶を発現していると推定される新たな金属錯体が発見できた点も、重要な研究の進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き完全自然分晶を示す新たな金属錯体の探索とともに、結晶化の際にキラリティーを発現する機構の解明を目指した研究を続ける。前年度には条件により完全自然分晶の消滅をコントロールできたが、まだキラリティーを反転する条件の発見には至っていない。この発見は、完全自然分晶の鍵であり、様々な実験条件を検討することにより、その解明に迫る。また、完全自然分晶により選択的に得られた光学活性錯体を用いて、キラル磁性や超分子形成、分子認識の分野にも研究を展開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題は、化合物合成とその結晶化、および得られた結晶の構造解析と分光測定を研究の根幹としている。そのため、化合物合成に用いる金属および有機試薬、再結晶に用いる有機溶媒を多種類かつ大量に用いる。研究費の大半はこれらの消耗品費に使用する。また、測定に用いるX線の線源やキセノンランプ、元素分析などの依頼測定料も必須である。本年度は、スペインで開催される国際会議および国内での錯体化学会討論会、日本化学会にて研究成果の発表を予定しており、そのための旅費も必要である。
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