本研究では、リポソームの表面と内部で金属錯体をメゾサイズ結晶として制御形成するために、(1)内水相への金属錯体の導入、(2)外表面および内表面への金属錯体の導入、による金属錯体メゾ結晶作成の基盤技術の確立を目指した。 (1)では、オクタン中におけるリン脂質を用いた逆ミセル法により{Fe(pz)[Pt(CN)_4]} (pz=pyrazine(1))を合成した。リン脂質の割合を変えることで、粒径が100-200nm程度のメゾ結晶を得た。さらに水中で逆ミセルにリン脂質を加えて、リポソームへと変換した。TEM観察により、内水相に1のメゾ結晶を内包するリポソームの生成を確認した。 (2)では、配位子にコレステロール部位を導入した親脂質性金属錯体[Ru(terpy)(Chol-bpy)(CH_3CN)](PF_6)_2(2)を合成し、リポソームとの複合化を検討した。化合物2の構造は、単結晶X線構造解析により決定した。化合物2とリン脂質から脂質フィルムを作成し、水和と凍結融解とソニケーションを繰り返した後に、ゲルろ過して細孔膜を通すと、2を内表面と外表面に組み込んだリポソームが得られた。化合物2は安定に保持されており、(NH_4)_2[Ce(NO_3)_6]を用いた水の酸化反応において、急激に酸素を発生することを確認した。さらに、リン脂質部位を導入した親脂質性Zn(II)ポルフィリン錯体3の合成にも成功した。化合物3をリポソームと直接反応させることで選択的に外表面に固定化し、その状態を共焦点レーザー顕微鏡観察における3の発光から確認した。 以上、本課題において、リポソームの内水相、および外表面と内表面に部位特異的に金属錯体を導入する技術を確立し、内水相においては金属錯体のメゾ結晶化に成功した。
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