研究課題/領域番号 |
23655062
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
渋川 雅美 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60148088)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 気液ハイブリッド固定相 / 疎水性ナノ空間 / 液体クロマトグラフィー |
研究概要 |
本研究は,疎水性ナノ空間における液相水の気相水への状態変化を利用し,疎水性多孔質粒子を担体として,疎水界面液相水と気液界面液相水および気相空間からなるハイブリッド固定相を創成すること,および圧力,温度,および空間サイズによってその構造を制御する液体クロマトグラフィーを開発することを目的としている。本年度は,気液ハイブリッド固定相構築のプロトコルの設定,および圧力によるハイブリッド固定相の構造変化の誘起と制御の可能性を探ることを目的として研究を行った。平均細孔径が8-30 nmのC18化学結合型シリカを担体として用い,これらを充填したカラムに室温でメタノールを通液し,ついで圧力を14 MPaとした状態で水を通してカラム内液相を完全に水に置換した。これを60 ℃のカラムオーブン中に入れて圧力を解放したところ,C18化学結合型シリカゲル細孔内に気相が形成されることを確認した。このとき,細孔径の小さい充填剤のほうが形成される気相体積が大きいことが分かった。ほぼすべての細孔内を気相が占めることを確認したCadenza 5CD-C18について,種々の有機化合物の保持体積を測定し,細孔内を水で満たした場合について得られた結果と比較したところ,ブロモエタンと酢酸イソプロピル,ニトロエタンと1-プロパノールなど,多くの化合物間で溶出順の逆転が観測された。この結果は気相が固定相として機能していると仮定したモデルによって明確に説明できることが明らかになり,気液ハイブリッド固定相の創成に成功したことが分かった。さらに,カラムに気相を導入した後,カラムに加える圧力を変えると分離選択性が圧力に依存して変化することが明らかになった。この結果は,カラム内の気相量と固定相液相量を圧力によって変動したためであると考えられ,圧力を変化させることによって化合物の溶出順の制御が可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の目的である疎水性界面水と気相を固定相とする気液ハイブリッド固定相を,C18化学結合型シリカゲルの疎水性細孔内につくり出すことに成功した。また,気相生成の手順を明確に設定することができ,この手順を踏むことによって再現性のある気液ハイブリッド固定相を創成できることを明らかにした。さらに,気液ハイブリッド固定相を構成する液相水と気相水の割合は,カラムにかける圧力を変えることによって自在に変化させ,それによってこのシステムの分離選択性を制御できることを明らかにした。これらは,本年度の目的として当初設定した本研究の根幹となる成果である。このことから,当初の目的はおおむね達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は平成23年度で得られた研究成果に基づいて気液ハイブリッド固定相HPLCシステムを構築する。気相体積および気液界面水体積と温度および圧力との関係を明らかにして,長時間安定に気相空間を保つ条件ならびに気相体積の制御法を見出すことを計画している。まず,気相体積および気液界面水体積と温度および圧力との関係を明らかにして,長時間安定に気相空間を保つ条件ならびに気相体積の制御法を見出す。カラム内での圧力降下をできるだけ小さくするため,できるだけ低圧で送液を行うことを計画しているが,このため,低圧でも定流速で送液が可能なポンプを使用する。また,C18化学結合型シリカについては,圧力降下の小さいモノリス型カラムの使用も試みる。一方,申請者の考案した移動相体積測定法により,分離機能を示す疎水性固液界面水と気液界面水の合計値を測定し,ついで,気相への入り込みが無視できる無機イオンとチオ尿素,ウラシルなどの親水性小分子をプローブとして,バルク水/気液界面水間の分配係数を推定する。検出器としては紫外可視吸光検出器,示差屈折計およびICP発光分析装置を使用する。示差屈折計とICP発光分析装置を検出器とする場合は,カラムと検出器との間に内径0.1 mmのステンレスコイルを置いて圧力を制御する。移動相には純水や上述した気体成分を含む水のほか,電解質水溶液を使用し,その種類および濃度と分配係数の関係を明らかにし,その結果に基づいて気液ハイブリッド固定相HPLCの分離性能を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費はC18化学結合型シリカカラムのほか,メタノールなどの試薬類の購入,および水の生成に要する費用に主に充てる。このほか,国内および国際会議での発表のための旅費,研究成果の論文誌への投稿費等に使用する予定である。
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