本年度は主に、平板伝送路を利用して試料にマイクロ波を効率良く照射するための工夫を行い、磁気泳動法による電子スピン共鳴観測を試みた。 一対の鉄片と永久磁石により泳動セルである正方形キャピラリー(内寸100 um x 100 um)を挟み磁場勾配を発生させた。6~20 GHzのマイクロ波は信号発生器と平板伝送路により試料に照射した。平板伝送路は、マイクロ波光源からの伝送線路である同軸ケーブルとのインピーダンスマッチング(50 ohm)のために、幅とギャップを固定した。また、平板伝送路と同軸ケーブルとの接点試料として、1-2 Mの塩化マンガン(II)水溶液を、水と密度がほぼ等しい2-フルオロトルエン中に超音波を用いてマイクロメートルサイズの液滴として分散したものを試料として用いた。磁場勾配下での液滴の泳動速度を、顕微鏡下で測定し、マイクロ波照射時と非照射時で比較した。 その結果、磁気共鳴が起こる位置で、磁気泳動速度が低下する現象が観測された。また、マイクロ波の周波数を変えると、共鳴位置も変化することが確認された。速度変化から磁気共鳴に伴う体積磁化率の変化量を考えると、20%程度の減少が示唆された。しかしながら、このマンガン(II)の電子共鳴スペクトルと比較すると、非常にブロードであった。これは、マンガンが高濃度であり、孤立したスピンと見做せないためであると考えられる。また、平板伝送線路と同軸ケーブルとの接点で損失が非常に大きく、より強度の大きいマイクロ波を試料に照射する工夫が今後必要である。
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