実験データに基づき、水面分子クラスター化学とでもいうべき新研究分野の開拓を図ることが目的である。具体的には、紫外光励起共焦点蛍光分光顕微鏡を開発して用い、“水面に吸着した小分子量(<300)の有機化合物は、極微量であっても水面上ではクラスター を形成する”ことを実験的に証明し、その状態を解析した。芳香族化合物(ベンゼン、ピレン、ペリレン等)を観測対象として検討を進め、水面特異的な分子挙動の分子論的理解を深め、あわせて新規実験手法を確立した。研究は次の3つを柱として進め、成果は逐次発表してきた。最終年度である本年度は、(I)紫外光励起共焦点蛍光分光顕微鏡の開発、(II)水面吸着芳香族化合物の測定とクラスター形成の証明、状態解析法の開発、(III)各種芳香族化合物誘導体の水面クラスターの特徴付け、全項目を検討した。 (I)では、前年度、High Power Xe光源と全反射励起を用いて設計・試作したセミ共焦点蛍光顕微鏡装置について、波長分解能、波長再現性等を評価するとともに、Xe光源の分光強度補正および検出系の蛍光分光感度補正を進めた。特に、水面選択的に蛍光励起スペクトルを測定する汎用手法が皆無であることの注目して、紫外域を含む250~500nm帯で波長可変という特徴を持つ装置として完成した。また、共焦点光学系に特徴的なスペクトル歪みの原因を整理した。(II)(III)については、ピレンをターゲットに絞り、吸収・発光特性の溶媒依存性を検討し、水面吸着分子に特有なスペクトルが観測できることを確認した。また、量子化学計算を用いた検証を試みた。他、可視光励起を用いた実験結果をもとに前年度提案した水面pHの新規決定法について、pHの測定範囲を酸性側から中性~塩基性領域まで拡大した。研究成果の一部は国内・国際学会等で発表済みであり、一部はより詳細な検討を必要とする課題としてまとめている。
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