本研究では、キラル超分子集合体が形成する立体特異的な空間を利用した分子認識システムの構築を目的とし、キラル超分子集合体の基材界面への固定化および精密分子形状認識剤への応用について検討した。HPLC用固定相として、単純な有機分子をグラフト化したものやポリマーを固定化したものが知られており、固定相への分配および水素結合や双極子相互作用、π-π相互作用などの分子間相互作用を利用している。より精密な分子認識を行う場合、高分子の二次構造を利用する方法や環状化合物のナノ空間を利用するアプローチが報告されている。本研究では、分子集合体が形成する特異的な構造に着目し、これを固定相界面に固定化することで、立体特異的ナノ空間を利用した分子形状の精密認識システムの開発を目指した。 具体的には、自己組織的に配向会合し、繊維状の分子集合体を形成するグルタミド誘導体にアルコキシシリル基を導入した分子を数種類合成した。シリル化グルタミド誘導体は、有機溶媒中や水中で自己集合体を形成し、キラル炭素近傍のアミド結合による分子間水素結合により、分子どうしが捩れた状態で配向していると推察される。このシリル化グルタミド誘導体を、多孔質シリカ球状粒子界面にシランカップリング反応を介して固定化した。置換基としてアルキル基、フェニル基などを用い、またキラル中心であるグルタミド部位とシリカ表面とのスペーサー長の異なる数種のグルタミド誘導体固定化シリカの分子認識能を評価した結果、オクタデシル基やポリマーをグラフト化したシリカと比較していずれも多環芳香族類や芳香族異性体類に対して高い分子認識能を示した。分子配向体が形成する立体空間中に配置された複数の相互作用ポイントにより、ゲスト分子の平面性、直線性を認識していると考えられる。
|