研究課題/領域番号 |
23655072
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
床波 志保 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (60535491)
|
研究分担者 |
飯田 琢也 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (10405350)
|
キーワード | 生体分析 / バイオセンサ / 金属ナノ粒子 / ナノ構造体 / 光機能 |
研究概要 |
今年度は、本研究の目的である非標識・高感度光駆動型バイオセンサの開発に向けて、異方的な形状のプローブ金属ナノ構造と初年度に構築した球状基板としての金属ナノ粒子固定化ビーズとの間に被検出物質を捕捉した系の光応答特性を主に調べた。特に、被検出物質に特異吸着する分子をプローブ金属ナノ構造と金属ナノ粒子固定化ビーズの表面に修飾して被検出物質を含む溶液を加えると、マッチングが良い場合のみプローブ金属ナノ構造が高密度に固定化されることを走査型電子顕微鏡を用いて確認できた。特に、被検出物質と修飾分子のマッチングが良い場合には光散乱スペクトルの大幅な変化の観測にも成功しており、ミスマッチの場合にはほとんど変化しないことも確認できた。理論グループで開発したクラスターDDA法によって、上記の光散乱の変化において、プローブ金属ナノ構造が高密度に結合することにより形成される局在表面プラズモンの集団モードと、金属ナノ粒子固定化ビーズの協力効果が重要な役割を果たすことが分かった。 さらに、この協力効果の起源を明らかにするため、サイズが異なるチオール分子をバインダーとして用いた金属ナノ粒子固定化ビーズの光応答についても系統的に調べた。その結果、バインダー分子が小さく、金属ナノ粒子間の距離が小さな高密度な場合ほど光散乱スペクトルのブロード化と長波長シフトが顕著になり、ピーク強度も大きくなることが分かった。この現象は、個々の金属ナノ粒子中の局在表面プラズモンの誘起分極が光電磁場を介してお互いに相互作用することで強く光を放射する、プラズモニック超放射に由来することが理論解析で示され、高次の集団モードがその起源となっている可能性を示唆した。これらの実験・理論の結果から得られた知見により、最終年度に取り組む予定である非線形光学応答を用いた光駆動型バイオセンサの原理開拓に向けて大きく前進したと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の【今後の研究の推進方策】に記載した内容は、上記「研究実績の概要」に記載したように、若干の方針の変更はあったもののほぼ全て達成した。特に、実験で得られた成果を理論グループで解析し、それをまた実験にフィードバックする体制が円滑に進んでいる点も特筆すべき点である。また、外部では未発表のため詳細はここでは割愛するが、金属ナノ粒子固定化ビーズの作製に用いるバインダーサイズを適切に調節することで、金ナノ粒子間に存在する分子からの非常に強い非線形光学応答(表面増強ラマン散乱)の観測にも成功している。さらに、3次元的な局在光電場を示す金ナノケージの作製および透過型電子顕微鏡(TEM)による形状評価にも成功し、光応答特性の評価準備も進めている。さらに、予想外の展開として、多重光トラップと揺らぎを利用することで金属ナノ粒子の高精度サイズ選別が可能であることを示す理論の結果や、光ピンセットを用いた実験で、金属ナノ粒子固定化ビーズを高密度に集積化することで表面増強ラマン散乱が増強するなどの興味深い現象も得られ始めている。このように提案書に記載した目標達成に極めて近いところまで来ており、予想外の成果も得られ始めており、当初の計画以上に進展していると考えている。 ※本課題と関連し、以下の受賞2件があったことも特筆すべき点である。 [1]第23回光物性研究会奨励賞、受賞論文:「熱揺らぎによる光輸送増強とナノ光スクリーニング」著者:田村守、飯田琢也 [受賞者:田村守] 受賞日: 2012年12月14日 [2] The Best Poster Award in JSAMA2012、発表者: Shimpei Hidaka, Yojiro Yamamoto, Shiho Tokonami, Takuya Iida [受賞者:Shimpei Hidaka] 受賞日:2012年9月11日
|
今後の研究の推進方策 |
実験グループでは、チオール化DNAをプローブとしての金ナノロッドと金属ナノ粒子固定化ビーズに表面修飾した系にターゲットDNAを加えることで、局在表面プラズモンの光応答の大幅な変化の観測に成功しており、ターゲットDNAのミスマッチ塩基数を変えた実験を行うことで白色光を用いた簡便・低コストな光駆動バイオセンサの実現を目指す。また、バインダーのサイズを変えた場合の金属ナノ粒子固定化ビーズにおける表面増強ラマン散乱の測定による低分子の検出に向けた検討、金ナノケージを用いた光駆動型バイオセンサ開発などを最終年度に当たって検討して目標達成を目指す。 理論グループでは、クラスターDDAを用いた解析により、金ナノロッドと金属ナノ粒子固定化ビーズの結合系の光応答解析を行うことで白色光を用いたバイオセンサの検出感度の理論限界等を探る。また、今年度に整備したFDTD法を用いた解析により、金ナノケージの内外での電場増強の様子を系統的に探ると同時に、被検出分子が吸着した場合の光応答の変化を理論的に解明する。これらの線形の光応答解析に加えて表面増強ラマン散乱などの光学的非線形現象の解析のための理論手法整備を進めて実験結果の解析を行うことで代表者の実験グループを後方支援する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度はバイオ関連物質のセンシングにおける検出感度や精度に着目した詳細な実験を行い、理論との整合性を調べる予定にしている。従って、研究費は実験に必要な消耗品としてDNA、金属ナノ構造体作製に必要な化学試薬などの購入にあてる。成果発表および情報収集のための国内外旅費も計上する。なお、研究計画を遂行するための基本的な実験設備は整ったため、次年度は高額な設備備品の購入は行わない予定にしている。また、本年度は最終年度にあたるため論文投稿料などの成果発表に関する予算を計上する予定である。使用計画の内訳は以下の通りである。 物品費:400,000円,旅費:200,000円,その他:100,000円
|