環境への負荷軽減を目的とした有機変換反応の高効率化と高選択性を実現する上で、機能性を高めた新規触媒の設計開発は益々重要となってきている。この解決を図るアプローチとして、有機分子触媒による不斉合成反応が挙げられる。有機分子触媒は、(i)取り扱いが容易、(ii)回収再使用が可能、(iii)温和な反応条件、などといった多くの利点から、2000年前後から急速に発展してきた研究分野である。しかしながら、有機分子触媒の適用範囲は、これまでの有機合成化学で確立された変換反応の域を出るものではなく、多くは従来法に代わる環境調和型分子変換といった価値観から開発研究が進められてきた。一方、遷移金属錯体を触媒とする分子変換は、多段階の変換反応を一挙に短縮する、あるいは新たな結合形成を可能にすることで、現在の有機合成化学の発展に大きく貢献してきた。本研究は、申請者が開発したキラルリン酸触媒に、遷移金属錯体触媒の得意とする化学結合の触媒的な活性化を組み合わせ、双方の触媒が有する優れた機能を融合するという斬新な発想のもと、環境への負荷軽減を図る高効率的かつ高選択的な高度分子変換反応を実現することを目的としている。 本研究では、二成分触媒の一つに有機分子触媒、特に申請者らが独自に開発したキラルリン酸触媒を取り上げ、これに遷移金属触媒を組み合わせたリレー触媒系の開発を目指している。このリレー触媒系の構築により二つの触媒系を融合したワンポット触媒反応を開発することが最大の特徴である。本年度は特に金属錯体触媒により不安定活性中間体となるカルボニルイリドの生成、引き続く不斉リン酸触媒による不斉還元によりイソクマリン誘導体の不斉合成を行った。その結果、高いエナンチオ選択性で生成部を得ることに成功し、しかも、不斉金属錯体による不斉発現はまったく観測されず、キラルリン酸触媒の添加が必須であることを明らかにした。
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