酸化反応は、有機合成における最も基本的な官能基変換反応の一つである。しかし、目的の反応を進行させるためには等量以上の酸化剤が必要であるため一般に環境負荷が大きく、その効率化が望まれている。本研究では、汎用される酸化剤である過オキソ酸イオンがアニオンであることに着目し、その対カチオンを適当な構造を有する有機カチオンとした新たな酸化性塩を創製することで、この課題に独自の解決法を提案することを目的とした。すなわち、水素結合供与型のキラルテトラアミノホスホニウムイオンを過オキソ酸イオンと組み合わせることで、水素結合を介した相互作用によるアニオンの電子および立体的性質の微細修飾ができると考えて研究を行った。 全く新しい化合物である水素結合供与型アミノホスホニウム-過オキソ酸塩の合成について、調製法そのものから検討し、数種の塩を得ることができた。調製したキラルオキソ酸塩を触媒とする酸化反応の開発に取り組んだが、過オキソ酸イオンを再酸化するための条件を最適化することが難しく、効率的なプロセスの確立には至らなかった。しかし、この研究の過程で、共酸化剤として用いた過酸化水素が過オキソ酸イオンの助けなしに、有効な酸化剤として振舞う反応系を発見した。すなわち、アミノホスホニウムイオンの前駆体であるキラルイミノホスホランが、直接的に過酸化水素を活性化・制御する酸化プロセスを見出し、これをN-スルホニルイミンの不斉酸化反応の開発へとつなげることができた。本反応は、系内で発生する有機過酸等価体が真の活性種であると想定される、これまでほとんど知られていない形式の不斉酸化であり、今後の発展性が期待できる。
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