本年度は,ケイ素不斉もしくは動的面不斉を有する非天然型キラルアミノ酸の化学に必須な2種類の不斉合成素子の開発とそれらの誘導化,および立体化学挙動の解析を行った.また,アミノ酸合成において重要なアミノ基の保護-脱保護に関して新手法を開発した. 1.ケイ素不斉を有する非天然型キラルアミノ酸を指向したキラルケイ素不斉合成素子の開発:アミノ基とカルボキシル基に誘導しうる官能基を有するキラルケイ素不斉合成素子としてアルケニルヒドロシランを設計し,その不斉合成を「アキラルジヒドロシランの不斉非対称化を伴うアルキンとのヒドロシリル化反応」により行った.種々検討の結果,適切なキラル白金触媒を用いることでアルケニルヒドロシランを光学活性体として得ることに成功した.また,その官能基変化について種々検討し,ヒドリドとアルケニル基をそれぞれ立体特異的に変換することに成功した. 2.動的面不斉を有する非天然型キラルアミノ酸を指向した不斉合成素子の開発:アミノ酸の基本骨格に適した動的立体化学と熱的安定性を兼ね備えた不斉合成素子として,官能基化された3-アザ[7]オルトシクロファンを設計し,その合成と立体化学挙動,官能基変換について検討した.その結果,この新規シクロファンが室温下安定な面不斉を有していることを,また,高温下にも化学的に安定であることを明らかにした.さらにそのアンサ環上にカルボキシル基を導入することで動的面不斉を有するアミノ酸誘導体を合成することに成功した.また,それらのアミノ基,カルボキシル基の保護基が立体化学挙動に及ぼす影響を明らかにするとともに,面不斉アミノ酸類の集積化によるペプチドの合成にも成功した. 3.アミノ基の効率的保護-脱保護法の開発:アミノ基の保護誘導体として良く知られているトシルアミド基のトシル基がホスフィドアニオンによって効率的に除去されることを見出した.
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