研究課題/領域番号 |
23655087
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
徳永 信 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40301767)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 不斉加水分解 / エステル / エノールエステル / アミノ酸 / 相間移動触媒 / 四級アンモニウム塩 |
研究概要 |
エステルの加水分解は酸触媒は一般的に100度12時間などの条件が必要で遅い。一方、塩基の場合は化学量論反応になるが、室温でも速やかに進行する。我々は高校の教科書にもでてくる塩基加水分解を不斉反応化することを目標に研究に取り組んだ。具体的にはキラル四級アンモニウム塩を触媒に用いて、世界初の人工触媒によるエステルの不斉加水分解反応に成功した。触媒としてはシンコナアルカロイドから誘導した四級アンモニウム塩を用いており、誘導体だけで100種類以上合成した。これをエノールエステル、ジエニルエステル、N-アシルアミノ酸のアルキルエステル、軸不斉ビフェノール化合物誘導体などの不斉加水分解に適用した。現在までにエノールエステル、ジエニルエステルを用いた場合、最高95%eeの選択性を得ることに成功している。一方、N-アシルアミノ酸のアルキルエステルでは、エステル部をヘキサフルオロイソプロピルエステルとすることなどにより、83%eeの選択性を得ることに成功している。前者の場合、アシル基部分の加水分解後、エノラートへのプロトン化という形で立体化学が制御されるが、後者の反応の場合、発生したキラルなOHマイナスによる立体制御になる。すなわち「キラルなOHマイナスの創生」に成功したことになる。さらに、後者の反応では、基質は光学異性体の混合物、すなわちラセミ体であるが、これがラセミ化しながら反応が進行する動的速度論分割にも成功している。原理的に100%の収率で生成物を得ることができ優れた反応であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように世界初の人工触媒によるエステルの不斉加水分解に成功しており研究はおおむね順調に進展している。触媒としてはシンコナアルカロイドから誘導した四級アンモニウム塩の誘導体だけで100種類以上、そのほかも約30種類以上を合成して各種の基質に適用した。これをエノールエステル、ジエニルエステル、N-アシルアミノ酸のアルキルエステル、軸不斉ビフェノール化合物誘導体などの不斉加水分解に用いて、現在までにエノールエステル、ジエニルエステルを用いた場合、最高95%eeの選択性を得ることに成功している。この反応に限らず、他の反応で合成するケースを考慮しても過去最高の選択性を得ている。一方、N-アシルアミノ酸のアルキルエステルでは、エステル部をヘキサフルオロイソプロピルエステルとすることなどにより、83%eeの選択性を得ることに成功している。前者の場合、アシル基部分の加水分解後、エノラートへのプロトン化という形で立体化学が制御されるが、後者の反応の場合、発生したキラルなOHマイナスによる立体制御になる。すなわち「キラルなOHマイナスの創生」に成功している。さらに、これをエステル加水分解だけでなく、レトロクライゼン反応にも適用し89%eeを得るなど順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
この研究では、現在(1) 高い触媒活性、選択性が出せる触媒や反応系、反応条件の開発(2) 基質適用範囲の拡大が当面の課題である。(1)に関しては、さらに高い反応性、触媒活性を得るために、シンコナアルカロイド誘導体だけにとどまらず、ベータアミノアルコール誘導体を幅広くためす予定である。さらに、これらを高分子に担持した触媒も合成する予定である。これまでに反応機構を分子軌道計算で解明する試みを続けているが、それによると、キラルなOHマイナスイオンの近傍に水分子が入り込むことが示唆されている。水の入りこみ方によってはOマイナスの位置が特定できなく選択性が下がる懸念がある。これを解決するために、ポリマー担持触媒の開発も計画しており、高い選択性が得られるものと期待している。ポリマーとしてはポリスチレン、ポリエチレングリコールなど、各種のものが過去に試されているのでそれらを参考に進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述したように(1) 高い触媒活性、選択性が出せる触媒や反応系、反応条件の開発(2) 基質適用範囲の拡大が当面の課題である。今回、テーマとしては(2)から攻めることにして2-アリールプロピオン酸類の不斉加水分解をターゲットにする。これまで、合成した数十種類の触媒を用いて、反応を試してみる。2-アリールプロピオン酸類は抗炎症剤、解熱剤として重要な骨格で不斉合成のターゲットとして重要である。これまでにシンコナアルカロイド由来四級アンモニウム塩を触媒に用いて、最高35%eeの選択性で加水分解反応を行うことに成功している。今までに得られているデータによると、100%近い変換率のとき初期と変わらない選択性がえられており、動的速度論分割が進行しているとの感触を得ている。
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