エステルの不斉加水分解は、酵素や微生物を触媒として早くから利用され工業化もされてきた実用反応である。一方で、触媒的不斉合成が大きく発展し、今や不斉反応が実現されてない反応を探すほうが難しい状況になった現在でも、エステルの不斉加水分解は難題として残されている。応募者らは、エステルの不斉加水分解も、酵素のような極めて精巧に制御された空間と多点認識による相互作用は必要なく、シンプルな分子触媒、特に有機分子触媒で行うことができると考えている。すなわち酵素のような極めて精巧に制御された空間と多点認識による相互作用は必要ない。そこで「エステルの塩基加水分解の不斉反応化」を考え、有機分子触媒である不斉四級アンモニウム塩を用いた研究を行ってきた。この触媒系はこれまでに有機触媒としてキラルなエノラートによるアルキル化反応などで実績があるが、ここでエノラートではなく、アンモニウム近傍にキラルなOH-を発生させ基質と反応させることにより不斉加水分解を達成する計画である。今回、エノールエステル、ジエニルエステルの加水分解的プロトン化で最高95%eeを達成した。反応機構に関して、NMRのNOE測定およびDFT計算で調べたところ、反応前の触媒の構造では、OH-の位置は触媒9位水酸基と水素結合することにより規定されこの付近にいることがわかった。また、不斉プロトン化ではなく、不斉加水分解の形式で進行するN-アシルアミノ酸エステルや2-アリールプロパン酸エステル類の加水分解でも最高85%eeの選択性が得られた。
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