ポリチオフェンは最もよく研究されてきた導電性高分子のひとつである。合成法も十分に確立さており、様々な分野への応用が試みられている。実際に、有機薄膜太陽電池や電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセンス、エレクトロクロミックディスプレイなどにおける有機機能材料として用いられている。このように研究され尽くされたかに見えるポリチオフェンのキャリア伝導メカニズムが未だに議論されているのはやや驚きである。『キャリア種は何か?』そして、『それはどのように材料中を流れて行くのか?』など、について様々なモデルが提案されている。我々は、『まっすぐなポリチオフェン1本』を合成し、その中で発生するキャリア種の特定やその移動度の決定に成功した。さらに詳細な知見を得るために、ポリチオフェンの2面角を制御し、平面性とキャリア移動度の相関を調べることを目的とした。 ポリチオフェンの2面角を制御するために、我々が以前に合成した『自己貫通ポリチオフェン』の分子設計を用いた。自己貫通ポリチオフェンは、環状分子側鎖を有し、その環状分子をポリチオフェン主鎖が貫通した構造を有する。環状分子はポリチオフェンを絶縁被覆するだけでなく、ポリチオフェンの2面角を平面に固定する。したがって、環状構造を取り除くことによって、平面性が低下したポリチオフェンを合成できる。 環状分子を4%~40%まで段階的に間引くことによって、ポリチオフェンの平面性を段階的に低下させることに成功した。得られたポリチオフェンは、平面性の低下に伴って、吸収スペクトルが短波長シフトした。今後、それぞれのポリチオフェンのホール移動度を測定することによって、ポリチオフェンの平面性とキャリア移動度の相関を明らかにする。
|