研究課題/領域番号 |
23655118
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田代 省平 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80420230)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | ペプチド / 金属錯体 / フォルダマー / 超分子 / オキシム / 二次構造 |
研究概要 |
生体オリゴマーであるペプチドを化学修飾することにより、その構造特性と利点を保持しつつ新たな機能・物性を付与した機能性オリゴマー分子群を人工設計することを目的として、金属イオンとの多点配位結合を駆動力として二次構造を形成する人工ペプチド「メタロペプチドフォルダマー」を創成することを目指した。天然ペプチド二次構造を形成する一義的な水素結合と比較して、イオンの種類や酸化数に応じて多様な立体構造を示す金属配位結合を用いることにより、従来のペプチドよりも多彩な二次構造ライブラリーを発生させることが可能となる。また金属配位構造の動的特性を活かして、外部刺激に応じた二次構造変換が期待できる。さらに得られた高次構造内には複数の金属イオンが配列することから、多核金属錯体としての高次機能も発現しうる。 申請者はこれまで、ペプチド主鎖に配位性オキシム基を導入したオキシムペプチドを設計し、ジペプチド、テトラペプチドを合成してその錯体形成挙動を検討することにより、例えばジペプチドとパラジウムイオンの反応から単核らせん錯体が得られることを見出している。そこで当該年度は、この結果をさらに拡張することを目指して種々の実験を進めた。その結果、テトラペプチドとパラジウムイオンから二核錯体型二重ヘアピン構造が定量的に得られることをNMR、質量分析および単結晶X線構造解析より明らかにした。またペプチド鎖をさらに伸張したオクタペプチドを合成して錯体形成を行ったところ、4つのパラジウムイオンが集積した四核錯体が得られることが質量分析から見出された。一方、多様な金属イオンの導入を目指して、上記オキシムペプチドの両末端を脱保護して両性イオン型オキシムペプチドを合成したところ、パラジウムイオンだけでなく白金やロジウムイオンなどを含んだ単核錯体型メタロペプチドを形成できることが単結晶X線構造解析などより明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に挙げた、単核錯体だけでなく多核錯体からなるメタロペプチドフォルダマーを構築する点については、二核パラジウム錯体型二重ヘアピン構造を定量的に合成し、さらにその分子構造を単結晶X線構造解析より正確に決定できたことから、ある程度は達成できたと言える。加えて、ペプチド鎖をさらに伸張したオクタペプチドを合成することにより四核錯体の形成が示唆されたことから、さらなる展開が期待される。また、多様な金属イオンの導入については、計画通り両性イオン型ペプチドを合成することによって、パラジウムイオンだけでなく白金やロジウムイオンの導入も達成した。さらに、研究計画で挙げたメタロペプチド二次構造の動的変換についても、パラジウム単核錯体では酸-塩基の添加によるヘアピン-らせん構造間の可逆構造変換を見出し、さらに二核錯体型二重ヘアピン構造でも同様の構造変換が生じる可能性を示すことに成功した。一方、得られた単核・多核錯体型ペプチドにおける機能発現に関しては今のところ大きな進展は見られないが、上記で得られた多核錯体構造の形成や多様な金属イオンの導入を基盤として、ペプチド骨格を土台とした様々な金属配列を検討することにより、触媒能や磁性、酸化還元特性、生体分子認識能など種々の機能化への展開を検討していくことを考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、まずはこれまで得られた結果に基づき、パラジウムイオンだけでなく多様な遷移金属イオンから様々な単核・多核錯体を合成してこれらの二次構造を単結晶X線構造解析や各種NMR測定から確実に決定することを目指す。例えば、平面四配位型のパラジウムイオンではなく、八面体型六配位型や直線二配位型の金属イオンを導入することにより、これまでと同様の単核・二核錯体でもパラジウムイオンの場合とは全く異なる二次構造を誘起できると考えられる。加えて、これまでに構造決定できた二核錯体以上の多核錯体型メタロペプチドフォルダマーの詳細な構造決定も検討していく。また、同種金属イオンだけでなく、異種金属イオンが精密に配列した多核錯体型ペプチドフォルダマーの形成を検討する。例えば、これまでに導入することに成功した白金イオンやロジウムイオンなど、置換不活性な金属イオンの特性を活かすことにより、速度論的に異種金属イオンをペプチド主鎖内に配列することが期待できる。もしくは、ペプチドN末端のアミン、C末端のカルボン酸の配位能の違いを活用して、熱力学的安定生成物として異種多核錯体を選択的に形成できる可能性がある。 またこれまで得られた、もしくは今後得られる二次構造間の可逆構造変換を達成することを目標として、光照射や酸化還元、pH変化、添加剤などに応じて金属イオンの配位構造を動的に変換することにより、メタロペプチド二次構造の動的構造変換を合理設計することを目指す。さらにこれらが達成された上で、得られる多核錯体型ペプチドの機能化を金属錯体およびペプチド両面の観点から検討することを試みる。加えて、可能であれば二次構造よりもさらに高次な三次・四次構造型メタロペプチドフォルダマーをデザインすることを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、上記の研究計画に基づき、主に物品費として有機試薬、金属試薬、分析試薬、ガラス器具や測定消耗品などに使用する。また、国内外の学会参加や共同研究打ち合わせとして、旅費に使用する。その他、学会参加費や印刷雑費などにも使用する。
|