研究課題/領域番号 |
23655121
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
北村 房男 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00224973)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ルビジウム / 酸素還元反応 / 酸素発生反応 / 触媒作用 / 金電極 |
研究概要 |
本研究は、ルビジウムイオンを含む塩基性水溶液中における金電極での酸素還元反応(ORR)が、他のアルカリ金属イオンの場合に比べて著しく促進される現象について、そのメカニズムを解明することを目的とする。最初にこの特異な現象が見出されたのは、硫酸ルビジウムを水酸化ナトリウム水溶液中に添加した系においてであったが、本年度はまず、ルビジウム以外の共存アニオン・カチオンの及ぼす影響の有無について検討を実施した。この目的のために、各金属の水酸化物塩(MOH, M=Li, Na, K, Rb, Cs)の水溶液中でORR挙動の検討を行ったところ、ルビジウム単味では、ORRに対する促進効果が小さかった。そこで、溶液中に硫酸イオンなど種々のアニオンを少量づつ添加し、それらの効果を回転電極法で検討すると同時に、明瞭な促進効果が得られることが判明している硫酸ルビジウム水溶液について、微量共存イオンの化学分析を実施した。その結果、白金や銀など、本来ORR活性の高い金属イオン種の混入による活性向上の疑いはないと判断された。活性向上を助長する第二成分に関しては現在も検討中である。一方、ルビジウムイオンがORRに対し速度論的に影響を及ぼす効果は、電極表面における不均一的なものであるかどうかを探るために、「その場」赤外分光法による電極界面観察を実施するとともに、電気化学マイクロバランス法によりイオン吸着の有無を調査した。その結果、金表面に吸着したルビジウムイオンが反応に関与していることが示唆された。さらに、ルビジウムイオンはORRのみならず、酸素発生反応(OER)も著しく促進する効果を示すことを見出した。水酸化ナトリウム水溶液中に比べて、水酸化ルビジウム水溶液中では0.4 V以上もOER過電圧が低下することが判明した。ここでも電極表面に吸着したルビジウムイオンの反応への関与を支持する実験結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はルビジウムイオンによるORR活性促進効果が発現する要因を実験的に明らかにするための基礎データ取得を主目的として研究を進めてきた。サイクリックボルタンメトリーや回転電極法を用いてORR特性の評価を行う作業は当初の予定をほぼ達成している。また、「その場」赤外分光法による界面観察も、当初の計画通り進行している。その一方で、ルビジウムによる触媒的作用が発現するためには、これを助長する他の物質の存在が実験的に示唆されたため、これを特定する作業を実施することが新たに必要となった。これは当初の研究計画には含まれていなかったが、機構解明のためには重要であるので、次年度も継続してこの作業を実施する予定である。他方、OERに対するルビジウムイオンの促進効果を見出したことは、当初の計画にはなかった大きな成果である。以上のように、研究の推進にともない検討すべき事項が増えてきてはいるが、全体の進捗としてはおおむね良好ではないかと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
ルビジウムイオンによる特異なORR促進効果が発現されるためには、共存する他の成分の果たす役割も大きいことが今年度の研究を通して明らかとなってきた。そこで次年度は、まず、その具体的な化学種の同定、および、発現条件の解明を進めていく。また、ルビジウムイオンは吸着種などの形態で金電極表面に存在し、直接的にORRに関与していることが明らかとなってきた。その影響が、酸素分子の電子状態に直接作用しているのか、あるいは下地金属を介して間接的に作用しているのかを見極めるため、金以外の電極材料、たとえばカーボンや白金電極上でのORR挙動を観測し、金電極の場合との比較・検討を行う。また、本年度は塩基性水溶液中での挙動解析を進めてきたが、促進効果の溶液pH依存性については明らかとなっていない。次年度はこの点に関する検討も開始する。ORR時における電極界面の「その場」観察についても、赤外分光法を用いて引き続き検討を行うが、本研究の立案当初に予定していた紫外・可視分光法による過酸化水素の「その場」分析に関しては、予算の都合上これを変更する。これに代わるものとして、ラマン分光法など他の手法の適用について可能性を検討する。また、XPSなどのex situ な手法による電極表面分析を実施し、ルビジウムや金原子の電子状態などについて検討する。 今年度の研究で新たに見出されたOER活性に関してはまだ不明な点が多い。そこで、これについてもORRと同様の電気化学測定および分光学的アプローチにより、その発現メカニズムについて検討を行う。この事項に関する研究を次年度に集中的に実施することとしたため、H23年度の研究費に残額が生じた。 一方、ルビジウムイオンのORRやOERに対する活性発現は、酸素の電子状態に影響を及ぼしている可能性も考えられる。そこで、これを理解するための計算科学に基づく理論計算を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては、ORR活性化の効果が塩基性の水溶液以外でも発現するかについて検討を行う。この際、pHの種々異なる水溶液を調製することが必要となる。この目的に使用するpHメーターを設備備品として購入する。一方、消耗品費としては、電気化学測定において使用する、単結晶を含むさまざまな電極材料、高純度試薬類、高純度ガス類、赤外分光測定を実施するための窓材などを購入する。以上の消耗品費の一部にH23年度の残額を充当する。また、本研究を遂行するため、大学院生に実験補助を依頼するための謝金を計上する。また、学会参加費として旅費を計上する。
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