本研究では、フリースタンディンググラフェンを用いたデバイスを作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)内でその構造と電気伝導性を調べた。具体的なデバイス作成手順は、銅を基板とした化学気相成長法によるグラフェンの成長と、1マイクロメートルの貫通スリット(スリット両脇に電極を配置してある)を開けた基板への転写、である。作成したフリースタンディンググラフェンを、水素エッチング、真空加熱処理を加えて不純物を取り除いた後、TEM内での実験に用いた。 TEM観察の結果、上記したプロセスで作成したグラフェンには、折れ曲がり構造が多く、平坦な部分の割合が少ないことが明らかになった。今後、転写プロセスを改良し、折れ曲り構造の発生を抑えて、平坦部分が多いフリースタンディンググラフェンを作成することが必要になると考えられる。また、電子エネルギー損失分光測定では、sp2ネットワークに特徴的なCのコアロススペクトルが観察され、電子線回折像が6角形の明瞭かつシャープなスポットを示したことから、結晶性の高いグラフェンを合成できていることがわかった。 電気伝導度測定では、すべてのデバイスで直線的なIV特性が見られた。これは、グラフェンの幅が1マイクロメートル以上であったため、典型的な金属的なグラフェンの電子構造を持っていたことと符合している。この電気伝導度は、加速電圧80keVの電子線照射によって一時的に低下したが、加熱処理を加えることで回復することが明らかとなった。これは、電子線照射によって部分的に作られた欠陥が、加熱処理による構造の再構成で回復するためであると考えられる。このことは、電子線照射と加熱を組み合わせることで、グラフェンの構造をコントロールできることを示しており、今後より詳細な実験を行うことで、最終的にはグラフェンの電子線による原子レベル構造マニピュレーションへとつなげたい。
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