研究概要 |
結晶多形は医薬品の効能や体内動態,および機能性材料の物性や性能などを決定付ける大きな要因の一つであるが,分子の化学式や化学構造情報だけから結晶構造や結晶多形を予想することは,未解決問題とされている.本研究では,我々が開発してきた結晶構造計算と配座空間探索技術を応用し,コンホメーション多形を含む結晶多形構造の効率的かつ網羅的な探索技術を開発する.ケンブリッジ結晶学データセンターが主催する結晶構造予測(CSP)ブラインドテストで提示された結晶構造に対して,正答率50%を超えることを目標にシステムを開発する. 本研究では(1)結晶多形探索のための試行構造を生成するプログラムの開発,および(2)最適化した結晶構造間の重複を取り除いて新たな多形構造を判断するための空間群決定プログラムの開発と並列化,について実施した.ここで,(1)は,次の手順に従う:分子性結晶の80%以上を占める5種類の空間群について,十分に大きくとった三種類の格子軸a,b,cの各方向に対して結晶内分子が接するまで格子長を縮小する.この操作を,縮小する格子軸の順序を変えることで,様々な結晶構造を試行構造として生成する.(2)については,空間群決定プログラムPLATONを解析した結果,現時点ではこれを積極的に利活用する方が研究効率が高いと判断し,自動化と部分並列化に必要な改良だけを行った. 結晶構造予測ブラインドテストのターゲット結晶構造15種類の予測が可能かどうかを確認するため,CONFLEXを用いて完全最適化を行った.その結果,全て99%の精度で結晶多形構造を再現できることを確認し,適切な結晶多形探索を行えば,正答率100%で予測可能であることを確認した.次に,結晶多形探索のための試行構造の生成アルゴリズムの検査を行った.既知のCSP結晶構造I,II,IV-Xの9種類についてテストした結果,少なくとも6種類の結晶多形は再現できることを確認し,その正答率は66%に達した.
|