研究課題/領域番号 |
23655139
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藏崎 正明 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (80161727)
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研究分担者 |
斎藤 健 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (40153811)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 影響評価法 / エピジェネチック / 長寿遺伝子 / 微量環境汚染化学物質 / リアルタイムPCR / PC12細胞 / アポトーシス / サーチュインファミリー |
研究概要 |
環境汚染化学物質の生体に及ぼす影響は、これまで寿命や老化に及ぼす影響としては評価されてこなかった。一方、サーチュインファミリーの1つであるSirt1は、脱アセチル化によりヒストンやアポトーシスに関与するp53等の働きを制御し、またインスリン/IGF-1(インスリン様成長因子-1)シグナル伝達系を介して寿命延長に作用することが知られている。我々は、Sirt1発現量を指標として、環境汚染化学物質の寿命に及ぼす影響を評価できるのではないかとの新しい着想を得た。本研究では、Sirt1発現量やインスリン/IGF-1シグナル伝達系を中心に化学物質の寿命や老化に及ぼす分子機構を明らかにすることを目的とした。1.3種の培養細胞中の恒常的Sirt1発現量をRT-PCRを用い予備的に検討したところ、PC12細胞で充分なSirt1の発現量が確認された。2.PC12細胞を用いてSirt1および2の、栄養因子の変化あるいは化学物質添加時の変化等を、リアルタイムPCRを用いて定量化を行なった。その結果、栄養因子除去によりアポトーシスを誘導した細胞でSirt1発現量が有意に低下すること、またジエチルフタル酸添加細胞においてアポトーシス条件下でSirt1発現量が有意に増加することが明らかになった。3.カロリー制限によりSirt1および2発現量が増えアポトーシスが抑制されるという報告が数多くなされていることから、連携研究者である青森県立保健大学佐藤伸教授の協力のもと妊娠期に低栄養投与されたラットの母体組織および産仔中のSirt1および2の発現量変化を測定したところ、低栄養でSirt1がやや減少する傾向が認められた。4.3,4で得られた結果から脂肪対処系の因子変動、アポトーシス因子、およびp53リン酸化などをウェスタンブロット法を用いて現在測定中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定にあったSirt1および2発現量測定にふさわしい培養細胞を選ぶことができ、その系を利用してアポトーシスでのSirt1発現量が有意に低下していることがわかり、現在その原因解明のための実験系が順調に進行している。また、インスリン/IGF-1関係の実験がやや遅れているがその代わりに妊娠期に低栄養投与されたラットの母仔組織中のSirt1および2発現量および脂肪代謝系因子のウェスタンブロット実験が進み新たな知見が生み出されつつある。以上のことから研究はおおむね順調に進行していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行なうことができなかった、Sirt1活性化因子であると言われているButein、Quercetin等を用いてSirt1活性化に最適な条件を検討する。また、Sirt1および2発現量に差異が生じたケースでのインスリン/IGF-1およびp53リン酸化等を測定し、化学物質の影響評価のための基礎データ取得に努める。妊娠期に低栄養投与されたラットに授乳期に高栄養に戻しかつポリフェノール類を投与した群およびしない群に分け、Sirt1および2発現量の変化を調べると共に、脂肪代謝系因子の変動を調べサーチュイン因子の生活習慣病への関わりを明らかにしていくことを試みる。 以上の結果からSirt1および2がアポトーシスのような細胞死に与える影響、あるいは生命維持に密接に関わりを持つインスリン/IGF-1シグナル伝達系への影響を及ぼす化学物質の挙動、さらに生活習慣病的因子への関わりを評価し、寿命に及ぼす影響評価法の構築が可能か否かを検討する。また併せて、得られた結果を総合的に判断し、Sirt1および2活性を中心に化学物質の寿命や健康に及ぼす分子機構を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度積み残した分は速やかにリアルタイムPCR用試薬およびそれに付随した物品を購入する予定である。次年度は主として物品費(消耗品費:リアルタイムPCR、ウェスタンブロットおよび細胞培養に関わる費用)に使用する予定であるが、一部成果の発表の国内旅費(2人、各6万円前後)に使用する予定である。
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