研究課題/領域番号 |
23655145
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
青木 隆史 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (80231760)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | バイオベースポリマー / 生体材料 / 生分解性・生体吸収性 / 応用微生物 / バイオテクノロジー |
研究概要 |
われわれの最近の研究で、ポリ乳酸(poly(lactic acid), PLA)が野生型の菌体内でも合成されていることが分かった。このPLAの微生物合成は、これまでに国内外で報告されてはおらず世界で初めての発見といえる。これまでのわれわれの知見からは、この微生物より得られるPLAの分子量は1,000程度のオリゴマーであることから、本研究課題では、より高分子量の、または高産生量のPLAが得られる培養条件を見出し、温和な条件下で得られるPLAの新たな合成方法を確立することを目的としている。3年間の研究期間内に、以下の2つの研究項目について明らかにする。(1) PLAが産生される野生株の Ralstonia eutropha (R. eutropha) の培養条件を検討する。(2) 高分子量のPLA、もしくは高産生量のPLAを得るための至適培養条件を見出す。初年度である平成23年度は以下に記した研究を実施し、特に一緒に回収される2種類のポリエステルのPHBとPLAを個別に単離精製する手法を確立した。R. eutrophaでの至適培養条件の検討(i) Nutrient Broth培地でR. eutrophaを増やした。(ii) 3 wt%の炭素源を含む窒素制限培地で、種々の時間をかけて培養を行った(至適培養時間の検討)。(iii) 培養終了後に集菌し乾燥し、乾燥菌体からchloroformで抽出操作を行った。(iv) 可溶画分をdiethyl etherに再沈殿して生合成されたポリマーを精製した。(v) さらに、種々の溶媒で抽出操作を行った。それぞれの抽出操作で得られたポリマーをFT-NMR, MALDI-TOF Massなどの構造解析方法で調べ、両ポリマーを分離精製したことを確認し、さらに低分子量の飼料がPLAであることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微生物ポリエステルである高分子量のPHBと一緒に回収されるPLA(オリゴマー)を分析する際に、これまで混合状態で質量分析やNMRなどの分析を行ってきた。両者のポリエステルの構造が似ていることから、溶解する溶媒も、不溶となる溶媒もほとんどが共通であったが、平成23年度に実施した抽出操作の探索実験により、これら2種類のポリエステルを分離精製する条件を見出すことができた。このことにより、低分子量体の試料のみを回収し質量分析やNMRの測定を実施して、そのスペクトルから帰属しPLAであることを同定した。PHBとPLAを分離精製できたことは、当該研究課題においては大きな意義があり、達成度としては低くはない。しかし、高分子量のPLA、もしくは高生成量のPLAを得るための至適培養条件を見出すまでには至っていない。例えば、低分子量であっても高生成量のPLAが得られるための至適培養条件を見出すことが、次の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で記したとおり、今年度の研究における課題は、「高生成量のPLAが得られるための至適培養条件を見出すこと」である。その課題を解決するための方策を以下に記す。1) 培地の嫌気性を培地の酸化還元電位をモニターしながら、PLA生成量との相関を整理する。2) 種々の有機酸を培地中に添加して培養し、PLAの生成量を調べる。3) 電気培養を試みる。種々の印加電圧をかけて培養を実施し、PLAの生成量を調べる。 さらに、至適培養条件下で生成したPLAの生成経路を解明し、その生成経路の中に存在すると考えられる酵素やその他の生理活性物質の精製にも取り組む。PLAの生成経路については、Pyruvate ―> Lactate ―> Lactyl-CoA ―> PLAの生成過程を経由すると、われわれは考えている。したがって、この経路の生理活性物質と、これら物質を基質とする酵素の存在を確認することも研究対象とする。また、PHA産生菌のPLA生合成について、他の生産菌株のスクリーニングを行う。これまで、R. eutrophaとBacillus megateriumに、PLA生合成能が認められている。その他の菌株についても広範囲にわたり、その生合成能を調べる。これらの実験作業とその結果により、PLA生合成の機構を明らかにしていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」で述べたとおり、培地中の酸化還元電位をモニターするための酸化還元電位計や、電気培養を行うためのパワーサプライとその培養容器を購入する。培養用の試薬や培養容器、そして、生成ポリ乳酸の精製分離を行うための器具などの消耗品も購入する。また、液体クロマトグラフィーなどの分析装置の修繕費が必要となるであろうと予想される。出張費は、成果発表だけでなく、関連する分野での最近の研究動向の情報収集を行うため、学会や研究会などの参加のために使用する。
|