研究概要 |
本研究の目的は、熱伝導と異なる加熱メカニズムを持つマイクロ波による加熱効果によって、in vitroの蛋白質作製法である無細胞発現の効率化を目指すことである。 マイクロ波加熱の有効性を証明するためには、マイクロ波による加熱の精度、温度制御の正確性が絶対的に必要である。そのため全研究費の55%を投入し、初年度(1/2)に「共振空洞型マイクロ波加熱装置」を導入した。この装置は本研究のために作製して頂いたもので、50-100 μLの微量な酵素反応に対し、誤差0.10%以下の高精度で波長2450 MHzを出力可能である。この装置の能力は、家庭用電子レンジとは比較にならないのは述べるまでもなく、mLスケールの有機化学用のマイクロ波合成装置に比しても、数ミリワットの出力制御可能なバイオ用の新型装置である。一方、温度制御に関しては、当初IRによって反応液内部の温度測定を予定していたが、容器表面温度と内部温度に違いがあることがわかった。そのため、最終年度(2/2)に電磁波の影響を受けない光ファイバー温度計を研究費の15%を投下して導入した。結果として、無細胞発現に適した微量スケールで、かつ正確なマイクロ波加熱と温度制御可能なオリジナルのシステムを完成できた。 無細胞発現に対するマイクロ波加熱効果は、無細胞発現システムとして大腸菌再構築系を用い、蛍光蛋白質GFPの発現を蛍光とSDS-PAGEで評価した。現時点の結果として、SDS-PAGEで確認できるほどの蛋白質量の発現量の大幅な増加は見られなかったが、蛍光プレートリーダーによって蛍光を測定した結果(励起485 nm, 蛍光510 nm)、通常加熱による発現と比較して約2倍の蛍光増加を再現よく確認することができた。現在は異なる2種の蛋白質の発現を目指しており、その結果を踏まえ、無細胞発現系に対するマイクロ波加熱の効果を論文投稿予定である。
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