赤血球ゴースト膜(WG)系と人口膜のリポソーム系という限定されたミクロ空間に反応物質を閉じ込め、膜系を融合合体させることにより反応物質の接触を制御し、必要量だけを生成する新規のミクロ反応器を開発することを狙いにしている。非常に極小な反応場であるため反応の確認には検出感度の高い蛍光発光に絞り、平成24年度に行った蛍光反応を示す物質の組み合わせによる蛍光共鳴エネルギー移動を基に小胞同士の融合方法の具体的な検討と物質保持性の検討などを行った。その結果は以下のようにまとめられる。 1.膜融合方法について (1) 一定の励起と蛍光波長を有する蛍光物質を組み込む膜融合方法についてWG系においてはトリトンX100添加による方法が最も有効であり、リポソーム融合系では凍結融解による方法が最も適当であった。(2) 0~50℃の範囲でWGの融合温度が高いほど融合しやすい傾向が確認された。(3)WG系とリポソーム系との異なる小胞同士の融合法を見出し、生体系と人口系の融合にも発展できることが分かった。 2.反応後の生成物質の保存を想定した容器としての保持性に関してカルセインを例に物質保持効率の面からWG融合法の適否を比較すると、トリトンX100の添加が最も有効で、続いて塩化カルシウム添加法、凍結融解法の順に有効であった。この結果はリポソームの場合とは逆傾向を示すものとなり、膜系の選択が影響することが分かった。 3.以上より、融合法、融合温度を選択することによりWG系、リポソーム系およびそれらの混合系でも小胞の合体は可能であり、その中で蛍光反応が進行していることから小胞膜を利用した新規のミクロ反応器の基本的骨格が実現できたと考えられる。ただし、蛍光以外の一般的な反応や定量的な検討が残され、今後の課題である。
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