本研究では次の3つの小目的に関して検討を行った。すなわち,1. 免疫細胞は通過できないが,糖,酸素,インシュリンは通過できる100 nm 程度の貫通孔を有する共連続体膜を開発する。2. 膜素材を柔軟かつ生体成分や細胞の癒着が無い素材で構成,あるいは,追加表面処理する。3. 共連続膜を「袋状」に成形し,膜厚1 mm 程度,内部空洞厚み600 m 程度にする。これらの小目的の達成により,膵島細胞を内部に閉じ込め,免疫反応を受けない状態で,糖に反応してインシュリンを放出する移植用の生体適合性多孔性デバイスを創成する。 平成23年度に引き続き,全体の課題について検討を進めた結果,下記に示す成果を得た。すなわち1.親水性多孔体をラット皮下に入れ癒着度,血管新生について観察したところ,両親媒性の高分子多孔体において良好な結果を得た。2.両親媒性の多孔性制御により,生体適合性が大幅に改善されることが明らかとなった。3.これら高分子多孔体をモデルながら袋状に成形し,糖,ならびにインシュリン透過実験を実施することができた。4.高分子多孔体を中空の袋状に成形する手法について,複数の方法を考案した。5.汎用性の高いブロック高分子の表面特性制御により,予想に反して,生体適合性の発現が認められ,その原因について検討を開始している。 これらのこから,①反応誘起相分離を用いるナノサイズ細孔を有する有機高分子共連続体の合成,②共連続体の物質透過,およびその速度の検討,③生体成分や細胞組織の癒着の無い,生体適合性有機高分子の開発と,共連続構造体の開発,④生体適合性の検討と,表面修飾による生体適合性のさらなる向上と安定性の確認について予定通りの成果を得,懸案とされていた袋化についてもその目処を得た。残された課題は,明確な生体適合性の根拠の確認と,袋化方法の確立,さらには実用的使用である。
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