研究課題/領域番号 |
23655157
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
依馬 正 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20263626)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 酵素反応 / 生体触媒 / 合成化学 / 不斉合成 |
研究概要 |
炭素-炭素(C-C)結合形成反応を触媒できる人工生体触媒を創製するべく検討を進めた。具体的には、酵素の内部に有機触媒を共有結合で連結して反応部位を構築する。有機触媒として含窒素複素環式カルベン(N-heterocyclic carbene, NHC)を選択し、タンパク質(アミノ酸残基)だけでは生成困難な反応中間体を発生してC-C結合形成反応を促進させる。まず、overlap-extention PCR法を使ってリパーゼ遺伝子にシステイン変異を導入した。作製した変異体は、I287CとI290CとQ292Cである。これらの遺伝子組換え大腸菌を培養後、大腸菌を超音波破砕し、尿素存在下でアクチベータータンパク質を加えてリフォールディングした。カラム精製した後、無機担体に固定化した。次に、エステル加水分解活性が最も高く効率よく調製できたI287C変異体を用いて、そのシステイン残基とペンタフルオロフェニル基を有するトリアゾリウム塩(NHC前駆体)を反応させた。未反応のトリアゾリウム塩を充分に洗浄して取り除いた。得られた酵素-NHC付加体を用いて、ベンズアルデヒド間のベンゾイン反応を試した。得られた生成物(ベンゾイン)の光学純度は4% eeであった。光学純度はキラルカラムを用いたHPLCにより決定した。低いながらもエナンチオ選択性が発現したことは、タンパク質内部で反応が進行したことを示唆していており、炭素-炭素結合形成反応を触媒できる人工生体触媒を創製できたと考えられる。今後、周辺のアミノ酸残基を改変すれば、エナンチオ選択性を向上できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
炭素-炭素結合形成反応を触媒できる人工生体触媒を創製できたとはいえ、エナンチオ選択性が低かった。さらに、一連の実験を通して、以下の問題点が明らかになった。(1)これまでに当研究室で作製してきた種々の変異体に比べて、今回新たに作製したシステイン変異体は、エステル加水分解活性が低い。そのため、酵素精製段階において目的酵素を含むフラクションを活性測定によって見付けにくい。(2)エステル加水分解活性に比べると、ベンゾイン反応触媒活性が低いため、多量の酵素-NHC付加体を必要とする。しかし、多くの固定化酵素を加えると、それを懸濁させるためにより多くの溶媒が必要になり、それに伴って基質濃度も下がってしまう。これらの問題を解決するためにかなりの時間を費やしたため、当初の研究計画より遅れる結果となった。今後挽回する。
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今後の研究の推進方策 |
トリアゾリウム塩を酵素活性中心に直接導入するやり方に切り替える方向で検討中である。リン酸エステルは、エステル加水分解反応の遷移状態アナログであり、酵素阻害剤である。リン酸エステルにトリアゾリウム塩を取り付けたものを用意すれば、混ぜるだけで効率よく酵素-NHC付加体が得られると期待できる。これを用いて、種々のC-C結合形成反応(ベンゾイン反応、Stetter反応、aza-diene Diels-Alder反応、benzoin-oxy-Cope型タンデム反応など)を試す。人工生体触媒と反応の適した組み合わせが明らかになったら、タンパク質側に変異を導入してさらに触媒性能を上げる。
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次年度の研究費の使用計画 |
酵素活性中心に直接導入するためのトリアゾリウム塩を有機合成する。リン酸エステルを有するトリアゾリウム塩であるため、比較的難しい合成になりそうである。試行錯誤の過程で種々の化学薬品を購入する必要が生じる。得られた酵素-NHC付加体の触媒反応を実施する際に必要な消耗品も購入する。合わせて、学会やシンポジウムなどに積極的に出席し、人工生体触媒と有機合成に関する最新の情報を収集する。NMR使用料などの分析機器測定料も計上する。
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