研究概要 |
有機触媒と酵素を組み合わせた人工生体触媒の報告例は、未だに皆無である。本研究の目的は、酵素(リパーゼ)に含窒素複素環式カルベン(N-heterocyclic carbene, NHC)有機触媒を化学修飾した人工生体触媒を創製し、それを用いてエナンチオ選択的なC-C結合形成反応を触媒させることである。このような人工生体触媒を創成できれば、酵素の有用性をさらに高めることができ、生体触媒の更なる発展が期待できる。NHCは、タンパク質(アミノ酸残基)だけでは生成困難な反応中間体を発生してC-C結合形成反応を促進する。1つ目のアプローチとして、リパーゼにシステインを導入し(I287CとI290CとQ292C変異体)、そのシステイン残基とペンタフルオロフェニル基を有するトリアゾリウム塩(NHC前駆体)を反応させた。得られた酵素-NHC付加体を用いて、ベンズアルデヒド間のベンゾイン反応を試したところ、反応が進行した。得られた生成物(ベンゾイン)の光学純度は4% eeであった。低いながらもエナンチオ選択性が発現したことは、タンパク質内部で反応が進行したことを示唆しており、C-C結合形成反応を触媒できる人工生体触媒を創製できたと言える。2つ目のアプローチでも人工生体触媒を創製した。リパーゼ酵素阻害剤であるリン酸エステルは活性部位に入り込み共有結合を形成して不可逆的に結合することが知られている。NHC触媒を有するリン酸エステルをいくつか合成し、リパーゼと混ぜることによりNHCを導入した。酵素阻害剤のアニオンの大きさ、親水性、リンカー部位の長さが入り込みやすさに影響していた。得られた酵素-NHC付加体を用いたところ、反応が進行した。得られた生成物の光学純度は-4% eeであった。1つ目のアプローチとは逆のエナンチオマーが低い光学純度ながらも生成した。
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