研究概要 |
本研究の目的は、本研究の協力者である藤原教授によって大腸菌で考案された「ドメイン干渉」を哺乳細胞に適応して、新たなタンパク質発現制御系を構築することである。ドメイン干渉とは、タンパク質の三次構造が構築される際に、あるドメインを過剰発現することで、そのドメインが分子内の他のドメインと相互作用することで不安定化され、分解が起こることを利用して、あるタンパク質の発現を抑制できる現象である。今回プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を対象にして、培養ヒト細胞を用いて検討した。PDIはa,b,b',a'の4個のドメインから構成されている。当該研究によって、まず、b' とa'ドメインが相互作用していることを明らかにした。さらに、a'ドメインはPDIの活性中心であるが、a'ドメインの活性はb'ドメインの添加によって増加し、a'ドメインの三次構造形成に必要であることを確認した。一方、ヒトHEK293T細胞においてbまたはb'ドメインを過剰発現するとbドメインの過剰発現では内在性のPDIの発現量に変化は見られなかったが、b'ドメインの発現によってPDI発現に顕著な低下が見られた。この結果はドメイン干渉が、哺乳動物細胞で起こることを示した初めての例である。さらに、ドメイン干渉を他のタンパク質に応用するため、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)について同様の実験を行った。sEHはN-末端側に脱リン酸化活性C-末端側にエポキシドヒドロラーゼ活性を持つ酵素で、N-末端とC-末端が相互作用して、二量体を形成すると考えられている。それぞれのドメインをヒト肝癌細胞Hep3Bに過剰発現したが、内在性のsEHの発現に変化は見られなかった。ドメイン干渉には、タンパク内部でのドメインの相互作用が必要なのかもわからない。今後様々なタンパク質に対しての検討が必要である。
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