本研究では、ランダム配列を有するRNAライブラリーを細胞内で発現させ、蛍光性の細胞を取得することによって、生体内で自発的に蛍光を発する新規RNA配列を獲得することを目指す。実際には、RNA自体が構造変化によって蛍光を発する可能性は極めて低いものと考えられる。そこで、完全にランダムな配列を出発点として進化分子工学を行うのではなく、限定的なスキャフォールドを出発点として、ライブラリーを作製する。 まず、細胞内でRNAを発現させる系としては、大腸菌内にてRNAを大量に発現させる系を検討した。当初、誘導型のT7 RNAポリメラーゼを利用したRNA発現系によりステム-ループ型RNAの発現を試みたが、発現量が少ないことが確認された。そこで、恒常的に発現するプロモーターを使用し、細胞内で安定的にRNAが蓄積できるように周辺配列としてtRNAを用いた。tRNA(Lys)を周辺配列として短いRNAを発現させたところ、1細胞あたり10000分子以上のRNAを発現できる事を確認した。 次に、細胞内において普遍的に存在する蛍光性低分子のFMN(フラビンモノヌクレオチド)に結合するRNAのライブラリーをスキャフォールドとすることとした。in vitroセレクションの手順を3回繰り返すことによって、固相化したFMNに親和性の高いRNAライブラリーを取得し、これをスキャフォールドとして用いた。 最終的に、FMN親和性RNAライブラリーをtRNAのアンチコドン領域に挿入し、大腸菌内で発現させた。約10^7の大腸菌クローンについて、フラビン含有培地において蛍光特性の変化を解析したが、現状では有為な蛍光変化が生じたクローンは見つかっていない。今後、出発ライブラリーサイズの増加や、FMN以外の蛍光性低分子について検討が必要であると思われる。
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