研究課題/領域番号 |
23655173
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 繁和 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00312538)
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キーワード | 量子コンピューター / 核スピン / 立体化学 / 核磁気共鳴 / 計算化学 / 立体効果 |
研究概要 |
1)sp2-とsp3-リン原子にフッ素を組み合わせた2-フルオロ-1,3-ジホスファプロペン分子骨格の出発体となる2-ブロモ-2-フルオロ-1-ホスファアルケン体の合成時に発現する立体選択性を、計算化学を用いて議論した。中間体となるクロロホスフィン体のスタッガード型立体配座を解析し、E体を与えうる中間体の安定性が若干高いことがわかった。一方で、各々の中間体の小さなエネルギー差から、反応温度の僅かな違いによって生成するホスファエテンが幾何異性体の混合物になってしまうことが示唆された。 2)速度論的に安定化されたジホスフェンを用いて新規な非対称P2分子系の構築を検討した。その結果、ジホスフェンと有機リチウム試薬から調製したアニオン種のP-P結合切断を用いることで、非等価な二つのリン原子を有する化合物を空気中安定な固体として単離できることを見出した。 3)リチウムエノラートとRuppert-Prakash試薬(Me3Si-CF3)を反応させることでC-F結合を活性化し、引き続く炭素―炭素結合生成反応で得られるジフルオロメチdsル誘導体の合成を行った。用いるエノラートに不斉官能基を導入することによって単一のジアステレオマーに誘導することができ、その構造をX線解析によって確定した。 4)高い電子供与性を示す1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイルユニットのリン上に直接ジフルオロフェニル基を導入する手法を確立した。プロトン、リン31およびフッ素19NMR測定の結果から、溶液系量子コンピューターにおいて7量子ビットとなりうることがわかった。また、この化合物は半導体特性を示す可能性も有しているので、固体デバイスでの量子情報処理への展開も期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画で中心となった、非等価な二つのリン核と一つのフッ素核を導入した分子系の構築に関する深い考察を行うことができたが、これは従来の低配位リン化合物の合成化学の上で基本的でありながらも重要な検討結果と言える。昨年度に引き続き、ジフルオロメチル基を導入した分子の合成に関する知見を得ており、不斉中心を隣接させることによって効率的にビット数の増加を図ることができることを改めて証明することに成功した。さらに、対称型ジホスフェンの分子変換によって新たな2量子ビット系を構築できることを見出し、更なる集積化によって多量子ビット化に展開することが可能となっている。一方では、これまでの溶液系量子コンピューター形式だけでなく、固体デバイスでの量子演算にも応用可能と考えられる分子系についても検討を行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
1)最近見出した知見をもとに、合成時のスケールアップが容易である対称型ジホスフェンを用いる非等価な二つのリン核を有する分子系構築プロセスについて更に検討する。具体的には、種々のP2誘導体を合成し、分子構造や基本物性を明らかにし、錯形成反応を用いた集積化について検討を行う。 2)隣接位に不斉中心を導入したジフルオロメチル基含有分子系の構築を検討し、フッ素19核およびプロトン核NMR特性を詳細に検討する。 3)これまでの知見を論文としてまとめ、公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度にキュービット分子ユニットの配位集積化化合物について構造解析を行って研究成果を行う予定であったが、X線構造解析の結果、水分子の付加が併発することで更にビット数の増加が見込めることが明らかとなったため、計画を変更し、新たなキュービット分子ユニットととしてのキャラクタリゼーションを行うこととしたため、未使用額が生じた。また最近、ジホスフェンからもキュービット分子として有用な構造が誘導できることがわかり、併せて検討することとした。 新たなキュービット分子ユニット同定の完成と成果発表を行い、未使用額を追加の実験の材料購入と発表資料作成のための経費に充てる。
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