研究実績の概要 |
代表的な低配位リン化合物であるジホスフェン(Mes*P=PMes*, Mes* = 2,4,6-tri-t-butylphenyl)のP=P結合開裂による新規な非対称P2化合物の合成について検討した。Mes*P=PMes*に種々の有機リチウム試薬と塩化アシル[RC(O)Cl]を組み合わせて反応させたところ、形式的に塩化アシルのCO骨格がP=P結合に挿入され、対応するP=C-O-P<骨格を有する生成物を単離同定した。リン31NMRを測定したところ、非等価なふたつのリン原子が比較的大きな結合定数を示すことがわかり、2ビット分子として有用であることが示唆された。光吸収特性について検討したところ、P=C部位の炭素上に結合した置換基によって吸収極大の位置が変化し、このことは時間依存DFT計算からも確認された。次に、P=P結合開裂の機構を解明するためにモデル分子をつかってDFT計算を行ったところ、予想されるジホスファン中間体から協奏的な電子移動による結合開裂のプロセスは大きな活性化エネルギーを必要とすることがわかった。その一方、ジホスファン中間体のP-P結合がホモ開裂してふたつのラジカル種が生成したのちにP-O結合を形成する機構について検討したところ、ジホスファンとラジカル対のエネルギー差が比較的小さいことが示唆された。なお、中間体として考えられるジホスファン構造は、反応混合物の温度可変NMR測定によって確認することができた。続いて、得られた非対称P2構造の集積化による多量子ビット化に展開するために、金属錯体の合成を検討したところ、3配位リン原子が優先して金属原子上に配位する特性が確認された。
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