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2011 年度 実施状況報告書

内的電場供給に基づく電気化学的触媒活性効果発現系の構築

研究課題

研究課題/領域番号 23655180
研究機関九州大学

研究代表者

田中 優実  九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00436619)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2013-03-31
キーワードイオン伝導体 / セラミックス / 燃料電池 / 電極触媒 / エレクトレット
研究概要

酸化還元触媒へのイオン伝導体を介した電圧印加によって触媒反応の選択性と活性が飛躍的に向上する現象は「NEMCA効果」として知られている。しかしこの効果を誘発するためには外部電源からの定常的な電界印加が必要となるため、発電自体を目的とするようなデバイスへのNEMCA効果の適用が検討された例はなかった。そこで本研究では、分極処理により高密度な表面電荷を半永久的に保持し得る「イオン伝導性セラミックエレクトレット」を触媒担体とすることで、 エレクトレットの持つ表面電場空間を起源としたNEMCA効果の発現を目指すこととした。本年度は、エレクトレット基材として酸化物イオン伝導を有するイットリア安定化ジルコニアセラミックス(YSZ; Y2O3=3 mol%)を選定し、200 ℃、250 Vcm-1で5~480分間分極処理した場合の電荷保持特性を評価するとともに、電荷強度、極性と触媒活性との相関を調べた。結果、上記条件での分極処理により、処理前の結晶構造を保持しつつ帯電強度が異なるYSZエレクトレット(電荷密度1~100 mCcm-2)を作成することに成功した。また、得られたYSZエレクトレット上に金電極を介して白金-カーボン系触媒を蒸発乾固塗布したのち、酸素ガスバブリング下の過塩素酸水溶液中にて回転ディスク電極(RDE)測定を行い、酸素還元触媒反応の活性化支配電流Ikを算出したところ、負電荷蓄積面上に塗布した触媒上のIkが、他の面と比して有意に大きくなることを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初予定のステージA(エレクトレット開発)、B(セラミックエレクトレットの電荷極性と表面電荷密度の違いが触媒活性に与える影響の検証)、およびC(エレクトレット上の触媒/集電体層形成パターンが触媒活性に与える影響の検証/YSZを利用)のうち、本課題において最も主要な取り組みであるステージBに関して、YSZセラミックエレクトレットを用いた場合の評価を一通り終えたことから、上記の区分とした。ステージB》このステージでは、エレクトレットの電荷極性および表面電荷密度の違いが触媒活性に与える影響を、RDE(回転ディスク電極)法に基づく酸素還元触媒反応評価によって検証する。この際、サンプル形状は平板とし、その表面を集電体で完全に被覆した後に触媒を担持することで、エレクトレット側からの反応場に対するアイオニックな作用の影響を排除する。なお、ここで使用するエレクトレットには様々な帯電状態を戦略的に付与しておく必要があり、ステージAで新たに開発するエレクトレットを対象とする場合、この技術を確立するまでに多大な時間を要する恐れがある。これは期間内の目標達成に対して大きな障害である。そこで、本ステージは当面、結晶構造や微構造、分極条件の組合せを変えることで帯電状態を制御することに成功しているバイオエレクトレットを対象として進めてゆく予定である。応募者がこれまでに扱ってきたバイオエレクトレットは、HA、炭酸アパタイト(CA)、リン酸三カルシウム(TCP)およびYSZの4種類であるが、このうち、HA、CAおよびTCPは酸性溶液中での溶解性が高く、PEFCの触媒反応環境下において利用するのは難しい。そのため、本ステージ開始時の主たる評価対象には、現時点で本課題の趣旨に最も合致していると思われるYSZを選択することとした。

今後の研究の推進方策

以下のステージA(エレクトレット開発)およびステージC(エレクトレット上の触媒/集電体層形成パターンが触媒活性に与える影響の検証/YSZを利用)を進めるとともに、ステージAで開発したエレクトレットについてもステージB~Cに進めてゆく。ステージA》常に水が発生し、また高い酸性状態にさらされているPEFC電極への利用という観点において優れた特性が発揮されるような、新たなエレクトレットの開発に引き続き着手してゆく予定である。イオン伝導を利用したエレクトレット作成という手法は極めて拡張性が高く、あらゆるイオン伝導体に対して適用可能であるものと考えられる。従って、基材となるイオン伝導性セラミックスは、イオン伝導特性(導電率の温度依存性)、熱安定性、酸化還元耐性、環境調和性などに関する文献データをもとに広い範囲で選定し、有力な候補に関して、詳細なイオン伝導特性・分極特性評価を経てエレクトレット化技術の確立につなげてゆく。ステージC》エレクトレットを金属性の触媒/集電体層で完全に被覆した場合、エレクトレットから発生する電気力線を完全に遮蔽する形で金属内における静電誘導が生じるために、エレクトレットの静電荷と同じ極性を持つエレクトロニックな電荷が触媒/活物質界面に集中するものと予想される。一方、エレクトレットが反応環境に露出している場合、エレクトレットから反応場に向けて電気力線が走ることになるため、電解質の誘電率に応じて、エレクトレット上の静電荷と同じ極性を持つイオンや分極分子がエレクトレット界面から排斥され、逆の極性を持つイオンや分極分子がエレクトレット界面に集合するものと予想される。したがって、このような界面状態の違いが触媒活性に与える影響を検証ため、エレクトレット上に、様々なナノ凝集構造を有する触媒を様々なマイクロパターンで堆積させ、RDE法に基づく酸素還元触媒反応評価を行ってゆく。

次年度の研究費の使用計画

次年度は、1点50万円を超える高額備品の購入はせず、試薬費を含む実験消耗品費として35万円、分析費及び電極の委託加工などを含む「その他」経費として35万円、成果報告費および旅費として20万円、計90万円の範囲で進めてゆく予定である。

  • 研究成果

    (31件)

すべて 2012 2011

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (26件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)

  • [雑誌論文] Synthesis of Activated Carbon from Rice Chaff...2011

    • 著者名/発表者名
      M. Inada, T. Koga, Y. Tanaka, N. Enomoto, J. Hojo
    • 雑誌名

      J. Jpn. Soc. Powder Powder Metal

      巻: 58[10] ページ: 598-601

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Electric polarization and mechanism...2011

    • 著者名/発表者名
      A. Nagai, K. Tanaka, et al.
    • 雑誌名

      J. Biomed. Mater. Res. A

      巻: 99A[1] ページ: 116-124

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Annual Reports of HVEM Laboratory, Kyushu Univ.2011

    • 著者名/発表者名
      M.Inada, K.Iwamoto, Y.Tanaka, N.Enomoto, J.Hojo
    • 雑誌名

      Improvement of Thermal Stability of Rutile...

      巻: 35 ページ: 89-90

  • [学会発表] 光触媒繊維体におけるソノ・フォトシナジー効果(2)2012

    • 著者名/発表者名
      榎本尚也、宮島俊和、田中優実、稲田幹、田中健一郎、田中里香、北條純一
    • 学会等名
      日本セラミックス協会 2012年年会
    • 発表場所
      京都
    • 年月日
      2012.3.21
  • [学会発表] α-SiC 粒子の低温合成と光還元能評価2012

    • 著者名/発表者名
      菊池早記、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      日本セラミックス協会 2012年年会
    • 発表場所
      京都
    • 年月日
      2012.3.20
  • [学会発表] 水熱炭化法によるカーボンスフィアの合成と構造解析2012

    • 著者名/発表者名
      稲田幹、古賀貴寛、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      日本セラミックス協会 2012年年会
    • 発表場所
      京都
    • 年月日
      2012.3.20
  • [学会発表] 多孔質セリア粒子の合成と燃焼触媒特性2012

    • 著者名/発表者名
      安允珉、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      日本セラミックス協会 2012年年会
    • 発表場所
      京都
    • 年月日
      2012.3.20
  • [学会発表] フッ素添加炭酸アパタイトのイオン電導特性2012

    • 著者名/発表者名
      田中優実、久貫悠美、稲田幹、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス基礎科学討論会第50回記念大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2012.1.13
  • [学会発表] 水熱炭化によるカーボンスフィアの合成とキャパシタ特性評価2012

    • 著者名/発表者名
      古賀貴寛、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス基礎科学討論会第50回記念大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2012.1.13
  • [学会発表] セリア焼結体の粒界、粒内イオン伝導特性の解析2012

    • 著者名/発表者名
      蒋喆、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス基礎科学討論会第50回記念大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2012.1.13
  • [学会発表] Y-TZP の低温劣化に及ぼす表面蓄積電荷の影響2012

    • 著者名/発表者名
      原浩之、田中優実、稲田幹、榎本尚也、永井亜希子、山下仁大、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス基礎科学討論会第50回記念大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2012.1.12
  • [学会発表] 自己加水分解による酸化チタン合成と触媒特性評価2012

    • 著者名/発表者名
      稲田幹、岩元一哲、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス基礎科学討論会第50回記念大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2012.1.12
  • [学会発表] 光触媒繊維体におけるソノ・フォトシナジー効果2011

    • 著者名/発表者名
      宮島俊和、田中優実、稲田幹、榎本尚也、田中健一郎、田中里
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.8
  • [学会発表] メソポーラスシリカ光分解触媒フィルタの開発2011

    • 著者名/発表者名
      片上洋平、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.8
  • [学会発表] グルコースの水熱炭化によるカーボンスフィアの合成:添加剤の影響2011

    • 著者名/発表者名
      古賀貴寛、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.8
  • [学会発表] 酸素還元触媒反応活系に及ぼす静電場導入効果2011

    • 著者名/発表者名
      田中優実、原浩之、稲田幹、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.8
  • [学会発表] メソ多孔質シリカ触媒材料の吸着・光分解シナジー効果2011

    • 著者名/発表者名
      稲田幹、山下翔悟、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.7
  • [学会発表] ジルコニアセラミックスの低温劣化に及ぼす電荷注入効果2011

    • 著者名/発表者名
      原浩之、田中優実、稲田幹、榎本尚也、永井亜希子、山下仁大、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.7
  • [学会発表] オキシハイドロキシアパタイトの分極特性2011

    • 著者名/発表者名
      宮本泰晃、田中優実、稲田幹、榎本尚也、永井亜希子、山下仁大、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.7
  • [学会発表] B 型炭酸アパタイトの熱安定性とイオン伝導性に及ぼすフッ素添加の影響2011

    • 著者名/発表者名
      久貫悠美、田中優実、稲田幹、榎本尚也、永井亜希子、山下仁大、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.7
  • [学会発表] セリア焼結体のイオン伝導に及ぼす微構造の影響2011

    • 著者名/発表者名
      蒋喆、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      セラミックス協会第24回秋季シンポジウム
    • 発表場所
      札幌
    • 年月日
      2011.9.7
  • [学会発表] イオン伝導性セラミックスの新たな可能性 ~エレクトレットの創製とその活用~2011

    • 著者名/発表者名
      田中優実
    • 学会等名
      第4回ワークショップ「固体材料合成および評価技術の新展開」(招待講演)
    • 発表場所
      福島
    • 年月日
      2011.9.13
  • [学会発表] ハイドロキシアパタイトの欠陥構造と分極特性2011

    • 著者名/発表者名
      宮本泰晃、田中優実、稲田幹、榎本尚也、永井亜希子、山下仁大、北條純一
    • 学会等名
      トークシャワー・イン・九州
    • 発表場所
      長崎
    • 年月日
      2011.9.1
  • [学会発表] イオン伝導体の新たな活用法 ~エレクトレットの可能性~2011

    • 著者名/発表者名
      田中優実
    • 学会等名
      トークシャワー・イン・九州(招待講演)
    • 発表場所
      長崎
    • 年月日
      2011.9.1
  • [学会発表] 有機合成法を用いたα-SiCナノ粒子の合成2011

    • 著者名/発表者名
      菊池早記、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      第1回九州若手セラミックフォーラム
    • 発表場所
      山口
    • 年月日
      2011.8.29
  • [学会発表] 光触媒繊維体における光・超音波同時照射効果2011

    • 著者名/発表者名
      宮島俊和、田中優実、稲田幹、榎本尚也、田中健一郎、田中里香、北條純一
    • 学会等名
      第1回九州若手セラミックフォーラム
    • 発表場所
      山口
    • 年月日
      2011.8.29
  • [学会発表] 多孔質シリカ光分解触媒フィルタの開発2011

    • 著者名/発表者名
      片上洋平、稲田幹、田中優実、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      第1回九州若手セラミックフォーラム
    • 発表場所
      山口
    • 年月日
      2011.8.29
  • [学会発表] Electrically induced charge storage on zirconia...2011

    • 著者名/発表者名
      Y. Tanaka, H. Hara, et al.
    • 学会等名
      18th Conference on Solid State Ionics
    • 発表場所
      Warszawa (Poland)
    • 年月日
      2011.7.7
  • [学会発表] 炭酸アパタイト系化合物の固体電解質特性2011

    • 著者名/発表者名
      田中優実、久貫悠美、稲田幹、榎本尚也、北條純一
    • 学会等名
      第37回固体イオニクス討論会
    • 発表場所
      鳥取
    • 年月日
      2011.12.7
  • [産業財産権] 耐低温劣化分極ジルコニアおよびその製造方法2011

    • 発明者名
      田中優実、稲田幹、榎本尚也、北條純一、原浩之、山下仁大
    • 権利者名
      田中優実、稲田幹、榎本尚也、北條純一、原浩之、山下仁大
    • 産業財産権番号
      特許: 特願2011-203796
    • 出願年月日
      2011年09月16日
  • [産業財産権] 触媒担体、触媒担体用エレクトレット及びこれらの製造方法2011

    • 発明者名
      中優実、稲田幹、榎本尚也、北條純一、原浩之
    • 権利者名
      中優実、稲田幹、榎本尚也、北條純一、原浩之
    • 産業財産権番号
      特許: P126517-A
    • 出願年月日
      2011年09月06日
    • 外国

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公開日: 2013-07-10  

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