酸化還元触媒へのイオン伝導体を介した電圧印加により触媒反応の選択性と活性が飛躍的に向上する現象はNEMCA効果として知られている。しかしこの効果を誘発するためには外部電源からの電界印加が必要となるため、発電を目的とするデバイスへの適用が検討された例はなかった。そこで本研究では、分極処理により高密度な表面電荷を半永久的に保持し得る「イオン伝導性セラミックエレクトレット」を触媒担体とすることで、 エレクトレットの持つ表面電場空間を起源とした触媒活性効果発現系の構築を目指した。 本年度は、昨年度に引き続き、エレクトレット基材として酸化物イオン伝導を有するイットリア安定化ジルコニアセラミックス(YSZ; Y2O3=3 mol%)を対象に、これを150~300 ℃、250~500 Vcm-1で60~480分間分極処理した場合の電荷保持特性を評価すると共に、電荷強度、極性と触媒活性との相関を調べた。この際比較として、同一形状の金ペレット及び未分極試料についても触媒活性評価を行った。結果、金ペレット、未分極面及び陽極分極面上の触媒は同程度の活性を示したのに対し、陰極分極面では、他の担体を用いた場合と比較して、酸素還元触媒活性が高くなる傾向を示すことが分かった。ただし、陰極分極面上に形成された正味の電荷量と触媒活性効果の間には比例関係が成立せず、触媒活性は電荷量の増加と共に向上するものの一定値以上まで電荷量が増加すると未分極試料と同等のレベルまで低下し、さらに電荷量が増加すると再び向上する傾向を示した。分極処理時、YSZの最表面においては、イオンの移動による分極形成に加えて、電極からの電荷注入によるイオン分極の打消し、さらには、注入電荷の固体内拡散による分極形成が生じているものと考えられる。YSZ上の触媒活性は、これら各分極形成/打消し効果のバランスによって決定されるものと考えられた。
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