研究課題
初年度に続き光合成反応中心膜タンパク質複合体である光化学系II(PSII)二量体をナノ細孔中へ導入した。PSIIは、光反応により水から電子を取り出し酸素を出す。二量体で分子量756 kDa、色素、電子担体分子40以上をふくむ20 nmx12nmの巨大タンパク質複合体PSIIは膜から表面活性剤処理で精製される。細孔中にいれると表面活性剤なしでも水にとけないPSIIが高濃度でも凝集せず高活性を維持した。好熱性シアノバクテリアThermosynechochoccus vulcanusよりPSII二量体を表面活性剤添処理で、単離・精製し、外径約5μmの粉末状多孔質材料(SBA )と混合した。この吸着パターンの解析と、PSIIの活性と熱安定性評価を行った。SBA内部の径23 nmの細孔中に5%重量のPSIIが吸着されると、活性と熱安定性が強化された。さらに、光化学系I(PSI)のSBA23内への吸着、非酸素発生型の絶対嫌気性ヘリオバクテリアのI型反応中心の吸着も行った。0.05mm厚のアルミナ薄膜を貫通する細孔内のシリカ細孔内にT.vulcanus PSI反応中心三量体を吸着させた。細孔内でのPSI三量体の、c2中心軸をほぼ薄膜面に平行(細孔軸に垂直)な規則的配列をとることを、電子スピン共鳴法により確認した。細孔内で分子を並べる基礎技術ができた。J. Phys. Chem.に論文を投稿した。ナノ細孔内に複合反応系を構築した。内部に無数の細孔をもつ、ホウ素珪酸ガラス板内にPSI,PSIIを吸着させ、これらと反応する小分子メデエーター(DCIPやヴィオローゲン色素など)、ヒドロゲナーゼ酵素タンパク導入させることで反応産物が外部拡散せず、逐次反応するミクロ反応系を構築した。効率増大、反応特性、最適化方法の検討中
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、1)光反応タンパク質をナノメートルサイズのシリカナノ細孔中へ導入し、機能させる。2)タンパク質機能を生体外で発揮させる新光反応システムを開発する。3)シリカは光をよく通すので、光合成や光センサータンパク質を入れて内部ナノ細孔中で光反応させる無機―生体ハイブリッド反応系を構築する。4)これを利用して、光エネルギーで、水から電子を取り出し、電力や水素の発生をする天然/人工ハイブリットの「人工光合成系」をつくる。タンパク質素材は、室温で長時間安定に機能する好熱性シアノバクテリアから精製した。a)新発見の「光センサータンパク質」群、b)CO2還元や水素発生に必要な強い還元力を作る「光合成光化学系I-クロロフィルータンパク質複合体」。c)水を分解して酸素を取り出す「光化学系II複合体」を使用した。多様なシリカメゾスコピック材料を使用した。A)内部にナノ細孔を持つ粉末状メゾスコピック試料(FSM, SBA)。B)ホウ素珪酸複合ガラスを部分酸融解してナノ細孔を形成した板状メゾスコピックガラス、C)板厚0.1mm以下のアルミナ薄膜を電解処理して微細貫通孔をあけ、その中に20と100nmのシリカナノ細孔を自己成長させたガラス素材を、豊田中央研、産総研関西、産総研東北との個別共同研究で得た。これまでに、a-cとA-Cの組み合わせ実験を行い顕著な成果をあげた。その結果、「光応答して色を変えるガラス体」、「光照射で酸素を出すクロロフィルタンパク質を内部導入した緑色の粉状シリカ多孔体」、「光合成反応中心タンパク質複合体を規則的に内部配列させ強い還元力を発生するシリカーアルミナ薄膜系」等の新機能素材作成、これによる光エネルギー変換に成功した。
(1) PSI-シリカメゾスコピック基材ハイブリットによる人工光合成系の開発;PSIは、酸素発生型光合成で二段階目の光反応を担う膜タンパク質複合体で、光エネルギーを利用してプラストシアニンを酸化しフェレドキシンを還元する。これまでにSBA内にPSI三量体を吸着させた。この吸着パターンの解析を行い、細孔径と分子サイズの適合方法を確立する。さらに、人工電子供与体・電子受容体存在下で光反応による電力発生、可溶性タンパク質フェレドキシンを孔内に共存させてのNADPの還元、ヒドロゲナーゼを共存させての水素発生系などを構築する。最適な電子供与体・メディエイター、シリカ内部環境を検討する。細孔内でのPSIとPSIIの連結を行い、人工光合成系を構築する。2) ガラス板状シリカ多孔体―タンパク質ハイブリッド系によるイメージングユニットの作成;①ガラス板状シリカ多孔体へPSI、PSII、人工電子受容体を併せて導入することで、光反応(光誘起電子移動)で色調を変化させる光反応材料を開発する。PSIとPSIIは、タンパク質複合体内部に多数のクロロフィル分子を結合する。そのためナノポアへの吸着物は緑色を呈する。また、電子受容体はその酸化還元状態に応じて変色する。粉末材料であるSBAでの実験結果を踏まえ、板状シリカ多孔体への吸着、反応条件(イオン強度、pH、濃度)の最適化を行う。②ガラス板状シリカ多孔体へ光センサータンパク質AnPixJを導入して光イメージセンサとする。このタンパク質は、フィコシアノビリンを結合し、青色と赤紫色の二状態間で可逆的な光変換(フォトクロミズム反応)を起こす。これを板状シリカ多孔体内へ吸着させ、光で制御可能なイメージング基材を開発する。さらに同系列で発色の異なるタンパク質群をもちいて、マルチカラーイメージングを行う。
物品費として、シリカ基材の作成と入手、機能の分光解析に必要な光学機器、レーザの保守、必要なタンパク質精製用の生化学薬品と消耗品、データ解析に必要な計算機―ソフトウエアの購入を予定する。最終年度であるので大型設備は購入しない。旅費:シリカ基材作成に必要な研究打ち合わせ、国内外の学会で成果発表を行うための、出張旅費を研究費から充当する。人件費:実験補助のためアルバイトを雇用する。その他として印刷費を計上する。前年度からの繰越額は、上記物の購入に充てる。
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