高分子単分子膜は、高機能薄膜として広く研究されているが、膜中で分子鎖がどのようなコンフォメーションを取っているかという高分子単分子膜の最も基本的な点が現在でも明確ではない。最近、我々は、ガラス転移温度(Tg)が大きく異なるポリメチルメタクリレート(PMMA)とポリノニルアクリレート(PNA)の相溶性ブレンド単分子膜を用いると、膜中に少量添加したPMMA孤立鎖のコンフォメーションを直接原子間力顕微鏡(AFM)で観察できることを見出している。本研究では、この知見を元に、以下の結果を得た。 (1)PMMA/PNAブレンド系に於いて、マトリックスのPNAの分子量を一定にしてPMMAの分子量を変化させると、PMMA鎖の回転半径はPMMAの分子量の0.63乗に比例し、2次元の理想鎖の指数(0.5乗)と2次元の良溶媒中の指数(0.75乗)の中間であること、またその広がりは、2次元の理想鎖(segregate chain)の4~6倍と大きく広がり、強くPNAと相互侵入していることがわかった。 (2)一方、PMMA/PNAブレンド系において、PMMAの分子量を固定し、マトリックスのPNAの分子量を大きく変化させてもPMMAの回転半径はほとんど影響を受けないことがわかった。 (3)以上から、PMMA/PNAブレンド系は、強く相溶している系であることが確認された。 (4)今後は、相互作用の異なるポリマー系を用いて系統的に検討を行い、2次元ブレンド膜中での分子鎖の広がりを検討することで、2次元状態における高分子の挙動を明確にすることが必要と考えられる。
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