AFM-表面増強ラマン分光光度計の試作を行った。具体的には、自作したラマン分光光度計とThorlab社の原子間力顕微鏡キット(AFM)を組み合わせて表面増強近接場光ユニットを試作した。励起光として半導体励起固体グリーンレーザ(532nm)を用い、長作動距離対物レンズ(×50)でAFM探針の先端に集光した。放出されたラマン散乱光は同じ対物レンズで集光し、ダイクロイックミラーとロングパスフィルターを使って励起光を除去した後に光ファイバーを通して分光器に導入し、電子冷却CCD検出器 (-70 oC)で検出した。測定はスペクトル分解能1~5 cm-1で行った。 AFM探針を金蒸着して用い、その先端に誘起される表面プラズモンによるラマン散乱の増強と近接場効果を利用した。試料として金や銀のコロイド粒子に吸着されたローダミンBやベンゼンチオールを用い、試料-探針間の距離とラマン散乱強度の関係を調査した。探針を数nm退避させるだけでラマン散乱の強度が急激に低下した。このことは、探針表面に励起される表面プラズモンの伝播範囲が1nm以下であり、それにより増強されるラマン散乱光の強度が、レーザ光が500nm程度の広い範囲に照射されていても、先端以外の場所から放出されるラマン散乱光の強度を大幅に上回っていることを意味している。このため表面増強近接場ラマン分光法では、AFMに匹敵する空間分解能でラマンスペクトルを観測することができていると考えられる。
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