一般に、加硫反応には酸化亜鉛(ZnO)が使用され、高性能ゴム製造に至っている。しかし、亜鉛鉱石の可採年数が22年程度と言われていることから、現在の水準でゴム製造に亜鉛が消費されるとその不足事態は免れず、ゴム製品の不足は社会に大きな混乱を招くと懸念される。また、タイヤの磨耗による亜鉛微粒子の環境汚染がEUを中心に問題化されつつある。そこで本研究では、ゴム材料の硫黄を用いた三次元化網目形成反応で、「亜鉛フリー」の新しい加硫反応構築に挑戦することを最終目的として研究を行った。最終年度では、主に時分割フーリエ変換赤外吸収(IR)スペクトル分析を行って、キュラストメータ測定結果との相関を検討した。その結果、酸化マグネシウム(MgO)とステアリン酸は反応してステアリン酸マグネシウムにほぼ定量的に変化するが、ZnOとステアリン酸の場合と異なり、加硫の進行に伴ってスペクトルは変化しなかった。酸化銅(CuO)とステアリン酸はほとんど反応せず、加硫によりスペクトル変化を示さなかった。ステアリン酸マグネシウムを用いた系でもスペクトル変化はなかった。ステアリン酸銅は加熱すると分解しステアリン酸と銅化合物に変化した。ステアリン酸を混合しないMgO+加硫促進剤+硫黄系、あるいは、CuO+加硫促進剤+硫黄系は、それらの金属酸化物を混合しない系と比較して、IRスペクトルには大きな違いはなかった。これらの結果から総括として、MgOとCuOは加硫促進剤+硫黄系の反応開始を促進する触媒作用はあるが、ZnOのように架橋反応の反応率を大きくする作用はないことが判明し、ZnOに代替可能な安全で豊富な金属酸化物は、現在の所ないことが判った。今後、亜鉛資源の有効利用を図るためには、加硫反応で金属酸化物を使用しない新たな架橋法の確立が必要であり、ステアリン酸亜鉛を最小限使用する系の構築が有望であろう。
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