研究概要 |
本研究は、フラックス法による有機半導体単結晶の新しい成長法を探索するとともに、有機半導体結晶への高濃度ドーピング法を開発して、我々が理論的に予測している有機半導体の大きな熱電効果(Appl.Phys.Exp.4,061601(2011))を実現することを目的として研究を進めた。 まず、フラックス法による単結晶成長については、アントラキノン(AQ; 融点279℃)が多くの有機半導体を溶かすフラックスになることを見出した。融解しない銅フタロシアニン(CuPc)との混合比を変えて融点測定を行い、濃度10%までは溶解可能であることがわかった。CuPc-AQ融液を徐冷することによって単結晶成長を試みたが、包晶反応が起こった。そこで、融液から蒸気圧の高いAQを蒸発させることにより、幅2mm×長さ15mm×厚さ0.5mm程度の薄片状 β-CuPc結晶を得ることができた。 次に、有機半導体に正孔をドープできるFeCl3をCuPcにドープすることを試みた。単結晶を得ることはできなかったが、SEM-EDSの分解能で均一にFeが分布した多結晶を得ることができた。粉末X線回折はCuPcでもFeCl3でもない構造を示すパターンが得られ、さらにピークの位置がFeCl3の濃度によっても変化した。また、粉末の拡散反射スペクトルを測定したところ、近赤外域に幅広い吸収を示し、吸収のピーク波長は濃度が高くなると低波長側にシフトした。また、真空中での電気伝導度はFeCl3濃度に応じて高くなった。これらの結果から、CuPcに対するFeCl3のドーピングに成功したものと考えられる。 上記試料について大気中および真空中で電気伝導度とゼーベック係数を測定した。室温・真空中におけるゼーベック係数は、FeCl3 : CuPc = 1 : 1(モル比)で1.4mV/Kと大きな値を示した。
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