研究課題/領域番号 |
23656003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新田 淳作 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00393778)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン波 / 磁性体 / マグノニック結晶 / スピン整流効果 |
研究概要 |
磁性体中のスピンの反転をすべてのスピンに分配して受け持たせようとすることにより、低いエネルギー励起が可能となりスピン波を形成する。このスピン波を情報の担体として用いるには、局所的なスピン波生成、伝搬制御、電気的な検出方法を確立する必要がある。電流が作る周期磁場により磁性体中のスピン波の閉じ込めとスピン結合制御を目指した研究を行った。磁性体NiFe(Py)細線上を左右に繰り返し横切る制御線を配置し周期的な磁場を印加することにより、スピン波を閉じ込めたり、結合したりすることができることを実験的に確認した。フォトニクス結晶とのアナロジーにより、この周期的な磁場を用いることによりマグノニック結晶が形成されると期待できる。 Py細線上には周期的な磁場を印加するための制御線を設けている。この制御線に流すDC電流により、Py線の磁化方向を反平行と平行に制御することができることを異方性磁気抵抗効果により確認した。また、スピン波の観測は、スピン波によるスピン歳差運動とマイクロ波の電場によって誘起される電流により発生するDC電圧成分(Photo voltage; PV)を測定することによりおこなった。外部磁場と制御線に流すDC電流により形成される周期的な磁場を変化させながらPVを測定した結果、スピン波の共鳴ピークが局所周期磁場により発展していく様子が観測された。局所磁場周期が3umの時は観測されなかった共鳴ピークのレベル反発が1um周期では生じることが明らかになった。これは、磁気ドメイン間でスピン波の協同的な結合が生じていることを示している。このスピン波の閉じ込めと結合はDC電流により制御できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災の影響で装置が故障し使用できない時期があったが、共同研究機関の協力により実験の遅れを最小限にとどめることができた。磁性体NiFe(Py)細線上を左右に繰り返し横切る制御線を配置し周期的な磁場を印加することにより、スピン波を閉じ込めたり、結合したりすることができることを実験的に確認したことは大きな成果である。外部から磁化方向やスピン波バリアを制御し得たことはマグノニック結晶の形成に大きな進展と知見をもたらしたと言える。スピン波の電気的な伝搬制御、電気的な検出方法が確立しスピン波を情報の担体として用いる基盤が整った。今後は、スピン波の局所的かつ電気的な生成・制御・検出に向けた研究を展開する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、周期的な微小磁区構造やスピン波バリアがマグノニック結晶として働くことを明らかにし、スピン波の分散関係に電気的に制御可能なエネルギーギャップを生じさせスピン波の伝搬を制御する。さらに、スピン波の局所的な生成・検出方法を確立し、室温動作可能なスピン波をもちいた新しいスピントロニクスに向けた設計指針を構築するところにある。 昨年度は、磁性体NiFe細線上を左右に繰り返し横切る制御線を配置し周期的な磁場を印加することにより、スピン波を閉じ込めたり、結合したりすることができることを実験的に確認した。今年度は、スピン波の局所的な生成・制御・検出を目指した研究を行う。電気的かつ局所的なスピン波の生成方法として、磁性体NiFe細線上の制御線に流す電流の作る局所磁場を用いる。また、局所的なスピン波の電気的な検出方法として、トンネル磁気抵抗素子を用いた検出方法を検討する。 一方、通常の磁性体NiFeは、ダンピング係数が大きくスピン波の減衰が無視できない。そこで、スピン波の長距離伝搬が可能となるダンピング係数が小さいことが期待されるホイスラー合金を用いたスピン波伝搬を試みる。また、スピン波の共鳴、分散関係よりダンピング係数を求め、スピン波の長距離伝送が可能となることを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
スピン整流効果により電気的にスピン波を検出する測定系は確立されており、材料等の消耗品、これまでの研究成果を発表する成果発表旅費として研究予算を使用する。
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