研究課題
今年度は電気二重層トランジスタと呼ばれるデバイス構造を用い、単層カーボンナノチューブ薄膜のキャリア濃度の電気化学電位による制御をおこない、吸収スペクトルと電気伝導度の同時測定をおこなった。試料には密度勾配超遠心分離法により、半導体単層カーボンナノチューブと金属単層カーボンナノチューブに分離した後、薄膜化したものをそれぞれ用いた。 吸収スペクトルは半導体単層カーボンナノチューブ薄膜においては伝導帯、価電子帯ともに第2サブバンドまで、金属単層カーボンナノチューブ薄膜においては伝導帯、価電子帯ともに第1サブバンドまでキャリアドーピングが行われていることが分かった。その結果、金属単層カーボンナノチューブ薄膜において、ON/OFF比5倍以上の電気伝導度の変化を得ることができた。バリスティックな1次元導体では、その電導度はフェルミ準位を横切るサブバンドの数に比例することが期待され、この電気伝導度の変化はフェルミ準位が第1サブバンドに達することにより生じたと考えられる。実際、光吸収スペクトルは電気伝導度が大きく変化した電位でフェルミ順位が第1サブバンドに到達したことを示した。通常の電界効果を用いた場合は、金属単層カーボンナノチューブのフェルミ準位を第1サブバンドまでシフトさせるまでには至らないが、今回、電気二重層トランジスタを用いることで、これが可能になった。また、半導体カーボンナノチューブ薄膜でも同様に伝導に寄与するサブバンド数の変化による電気伝導度の変化が観測された。 これらの結果は、初めての金属単層カーボンナノチューブのトランジスタ動作を実現したと同時に、薄膜においてもカーボンナノチューブの1次元性が伝導特性に大きく反映されていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、有機および炭素系物質半導体薄膜への電気化学的キャリアドーピングとその位置選択的固定化である。今年度の研究により、カーボンナノチューブ薄膜への電子および正孔の電気化学的キャリアドーピングに成功した。また、高分子薄膜への電気化学ドーピングも行っており、研究目的の前半は達成された。
今後は、有機半導体薄膜に電気化学的にドーピングされたイオンを固定化する研究を行う。固定化の方法として、光反応器を持つ電解質の光化学反応、および電解液としてイオン液体を用い、その凝固を利用する場合の両方を試みる。
次年度の研究費は、主にイオン液体等の電解質や高分子半導体等の購入に使用する。
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