研究課題/領域番号 |
23656021
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
牧 英之 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (10339715)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | ナノ材料 / ナノチューブ・フラーレン / 電子デバイス・機器 / バンドエンジニアリング |
研究概要 |
現在の半導体技術は、バンドギャップをエネルギー的・空間的に制御する"バンドエンジニアリング"により様々な機能素子が実現してきたが、既存のバンドエンジニアリングは、組成制御やドーピングなどのプロセス時で導入されるため、一旦デバイスを作製すると、外部から変調することは難しい。本研究では、次世代のバンドエンジニアリング材料として、擬一次元構造を持ち機械的特性に優れているカーボンナノチューブ(CNT)に注目し、微細加工技術を用いて一本のCNTへの歪印加素子を開発することにより、バンドギャップを高速に変調するという新たなバンドエンジニアリングの構築を行う。また本素子を用いて、未だ観測されていない歪による金属-半導体転移の観測や、従来の固体半導体では実現が難しいバンドギャップ変調による波長可変発光素子および超小型分光器の開発を行う。平成23年度は、微細加工技術を用いて、両支持梁構造を有する歪印加素子の開発に関する研究を進めた。ここでは、酸化シリコンおよびシリコンに対して、電子線リソグラフィー、ドライエッチングを施すことにより、両支持梁部分が空中に浮いた構造を作製した。この左右には歪印加用の電極およびCNT固定用の電極が配置されており、歪印加用の電極と梁構造に電圧を印加することによって、帯電による静電引力により梁構造が歪印加電極に引き寄せられる。これにより、反対側に形成したCNT固定電極と梁構造間に成長したCNTに対して、引っ張り歪の印加が可能である。この素子を用いて歪印加下でのフォトルミネッセンス測定を行ったところ、歪印加に伴うバンドギャップ変化によって、発光エネルギーのシフトを観測することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的である微細加工技術を用いた歪印加素子の開発に成功するとともに、歪印加に伴うバンドギャップ変調の観測に成功している。また、本素子に対して電極を形成することにも成功しており、次年度で計画している波長可変発光素子・分光素子および電気測定による金属半導体転移観測が可能なデバイスが得られており、計画以上の進展が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに、微細加工を用いた歪印加素子の作製に成功したことから、今後は、(1)高速バンドギャップ変調の観測、(2)歪印加による金属ー半導体転移の観測、(3)波長可変発光素子・分光素子開発を行う。(1)では、歪印加電極に数MHzの矩形または正弦波を印加することにより、一本のCNTに対して高速の歪印加し、高速バンドギャップ変調を観測する。ここでは、高速変調された一本のCNTからの微弱な発光を高感度に観測するため、アバランシェフォトダイオードを用いたフォトンカウンティング法により測定し、バンドパスフィルターにより取り出した発光の時間分解測定を行うことにより、発光波長の高速変調を観測する。(2)では、歪印加素子に対してソース・ドレイン電極を形成し、低温における電気伝導測定を行い、金属-半導体転移を直接観測することを試みる。ここでは、申請者がこれまでにCNT量子ドットにおける単一電子輸送特性で用いたクーロンダイアモンド測定を応用する。クーロンダイアモンド測定では、クーロンブロッケードに伴う帯電エネルギーや離散化エネルギー(ともに10meV程度)を明瞭に観測することが可能であることから、本測定を様々な歪印加下で測定することにより、クーロンダイアモンドの大きさの変化から、歪印加によるバンドギャップ変調を観測する。(3)では、歪印加素子とELの融合により、電流注入型の波長可変発光素子を開発する。電流注入発光時に歪を印加することにより、波長可変発光素子を実現する。さらに本研究では、上記デバイスを用いた分光素子も開発する。特異点間に共鳴する光を入射した場合、大きなフォトカレントが得られることから、特異点間のエネルギーを歪により掃印することにより、入射光エネルギーの分光が可能である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、(1)高速バンドギャップ変調の観測、(2)歪印加による金属ー半導体転移の観測、(3)波長可変発光素子・分光素子開発の研究において、新たに光学系の構築および電気測定系の構築が必要となるため、光学部品および電気測定部品の購入を行い装置の構築を行う。また、(2)の研究においては、低温での測定が必要なため、液体ヘリウムを購入する。今年度に残額が生じて次年度に使用予定の研究費があるが、これは当初予定していた液体ヘリウム、電子部品、光学部品の消耗品が予定より少なかったことによるが、次年度において、液体ヘリウム、電子部品、光学部品の消耗品へ利用する。
|