磁気力顕微鏡の分野で、これまで成功例のない試料表面近傍で直流磁場の方向と強度を同時計測できる、ナノメートルの空間分解能を有する近接場磁気力顕微鏡の開発を目的として、最終年度の本年度は、「高飽和磁場・ソフト磁性探針の試作と永久磁石材料観察への応用」を実施した。その成果として、以下の1)、2)及び、研究期間全体を通じて、3)~5)の成果を得た。 1)従来の永久磁石材料観察で課題であった強磁性探針の磁気吸着を回避するために、新たに高磁化率のFeMn系常磁性探針を開発し、永久磁石に対し磁気吸着のない試料表面近傍での磁場観察に成功した。 2)当初の実施計画にはないが、この常磁性探針を用いて、報告が皆無であり革新的手法となる、磁場の絶対値計測を試料表面近傍で可能にする新たな計測手法を開発し、特許出願を行った。 3)近接場磁気力顕微鏡を、小型の走査型プローブ顕微鏡に、試作した交流磁場印加機構を組み込んで構成し、高密度磁気記録媒体を観察試料として、本顕微鏡の特長である、試料表面近傍で直流磁場の方向と強度の同時計測を実証した。当該顕微鏡においては、探針試料間距離を減少させることにより、従来の磁気力顕微鏡と比較して、磁場信号の強度が一桁以上向上し、空間分解能が大幅に向上することがわかった。 4)発生する磁場が弱いために高い計測感度が求められる高密度磁気記録媒体に対して、高感度を有するFeCo系高飽和磁化探針を開発し、試料表面近傍での磁場計測により、線記録密度 1400 kfci(ビット長18nm)の磁気記録媒体において、世界最高レベルの空間分解能6 nmを得た。 5)さらに当該顕微鏡が有する磁場の強度と位相のベクトル情報から、位相を調整することにより、任意の観測方向の磁場観察、および直交2軸方向(例えば、試料面に垂直および平行方向)での磁場の同時計測(ベクトル磁場計測)を実証した。
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