本研究は、特定波長の光照射によって試料物質に誘起される双極子遷移と、同じくこの光によって原子間力顕微鏡(AFM)の金属製探針に誘起されるプラズモン電場との相互作用力を高感度に検出することを通じて、物質選択性を持ち、かつサブナノメータースケールの分解能を有する顕微分光法を開発する可能性を探ろうとするものである。これを実現するためには、AFMでの力計測に広範に用いられる、計測用レーザー光による擾乱を完全に排して、純粋に励起用レーザー光によって誘起される試料‐探針相互作用を検出しなければならない。そこで、光を用いないAFM計測法として、水晶振動子を用いたAFM法を採用し、その計測感度をどこまで高めることが可能であるかを追求した。水晶振動子法では、水晶振動子の電極に誘起された電荷を、OPアンプを利用した電荷アンプで計測するが、水晶振動子は通常1pFオーダーの微小な容量を持つコンデンサーであり、計測用の電極から電荷アンプの距離が長いと周囲との容量性結合によって擾乱を受け、検出感度が低下する。そこで、ここでは、水晶振動子のホルダーに電荷アンプをも直接組み込んで、至近で電荷検出する方法を採用した。併せて、4素子入りのOPアンプで電荷アンプを構成して水晶振動子の両電極の電荷を差動検出する形にしたところ、周囲の各種電極からの同相的なノイズの低減効果が著しく、水晶振動子の真の空間的振動変位を直接反映する信号を得ることができるようになった。これは、高感度かつ高信頼性の水晶振動子AFM計測を可能にする重要な基礎技術であり、現在論文投稿を準備中である。上記と併せて、AFM装置を収納する真空槽にレーザー光を導入し探針部分に照射するための光学系も構築した。現時点では光によって誘起されたとみられる力増強は計測されていないが、装置のさらなる改良で感度が向上すれば検出できる可能性はあると考える。
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